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Okada Takuro オフィシャルインタビュー

ミックスはどんな作業工程でしたか?

岡田これまで通り、僕がある程度家でミックスした状態で葛西さんのスタジオに持っていって、赤ペン先生的にチェックしてもらうという形(笑)。プロのエンジニアじゃないとできないEQとかコンプとか、いろいろな技を施してもらって、その後細かい調整を自分でしていくという感じでした。歌処理も客観的に処理するのが苦手なので、葛西さんに意見を請いながら作業しました。それを2往復程。ほとんど無勝手流でバイブスだけでやってきたから、あらためてテクニックを教えてもらう機会でもありました。

歌詞について。はじめてすべて自作詞になりましたね。

岡田最初はいつもどおり増村くんにも書いてもらったりしてたんですけど、いざ自分で歌うとなると、他人の言葉では今回の音楽の時にどうもうまくハマらなくて……だから自分で書かざるを得なかったというのが真相ですね。

歌詞を読んでいくと、ほとんどの曲で過ぎゆくものや失われゆくものへの視点が漂っている気がします。これは何故なんですかね?

岡田うーん、なんでだろう、難しいですね……。今の時代の流れや大きい力への抗えなさとか無力感が自然とそういった方向に導いていったのかな……。物事はもう取り返しのつかない所まで来てしまっているんじゃないかという気持ちは、今すごく強く感じます。

夜や夜明けをモチーフにした曲が多いようにも思います。

岡田当初は特にそういったテーマを持って書きはじめたわけではありませんでした。今回も断片的なものも含めてアルバム2、3枚分くらいの曲を書いたのですが、その中で自然と見えてきたシチュエーションが、夜中や夜明け前だったんです。

なるほど。

岡田内省的な心情をそのまま内省的な言葉で書いても本当に大海原に砂を投げ込んでいるようだし……(笑)。一方で、ストレートな自分自身の言葉みたいなものはやっぱり書きたくなかったんです。でも、もう気がつけば20代も終わるし、これからどんどんいろんな事を諦めながら生きていかなければいかないと思うと、今の時点でのできるだけ正直な事を書いておきたい……そういう切実な逡巡があって。
そんな中、かつて経験した、まだ呑み足りない夜中の2時頃から親しい間柄の人と「家でもう少し呑もうか」くらいな感じで、アイ・トゥ・アイでちびちびお酒を呑みながら交わした静かな会話やそこで感じた機微を、僕じゃない「誰か」の視点に置き換えて書くという方法を見つけたんです。それこそ森は生きているの『グッドナイト』の制作中は、中央線沿いをほとんど毎日飲み歩いて、呑み足りないから、そのまま増村くんの家に行って、ずっと音楽とか小説とか身の回りのこと、制作のシリアスな話をしていました。そして明け方、毎回「ようやく雲を掴んだ気がする!」という手応えの中コタツで気絶してしまって、翌日目が覚めた頃には何も覚えていなくてただただ気持ちが悪いという(笑)。これは今までも言ってきたし何度でも言いたいんですが、そこでの雲を掴むような作業こそが、音楽を作る身として物事を見極める力を養うとても大事なものだったと思っているんです。それと、深夜2時〜早朝5時頃という時間帯には、社会的な体裁や活動とは多くの人が切り離されて、とても正直になれる時間であるとも思っていて。

自分の中で意味やメッセージに落とし込む前の、実際に会話の中に漂っていた言葉を捕まえた、という感じ?

岡田そうですね。

夜の時間帯って、人にとってもある種の「意味性から降りる」時間帯でもあると同時に、モノにとってもそうですよね。誰もいない道で光っている標識とか、表示物としての目的や意味から開放されていて、異様な美しさを湛えたりする、っていう。

岡田はいはい。

言葉も一緒かもしれませんよね。昼間話していることって、純然たる意味のキャッチボールかもしれないけど、夜、宿酔の状態で言葉が実用的な意味から降りてみると、言葉の違う表情が出てくる、みたいな。

岡田わかります。言葉自体がなにか一個の思考としてたしかな意味を持っているとか、あるいは自分が内実に秘めてきたこれぞという言葉とかじゃなくて、何かを思っているときにそのまま出てきた言葉。そういうのが歌詞になったら面白いなと思ったんです。

内面吐露とか自分の精神を開陳するとか、ある種のロマン主義的なシンガー・ソングライター言語とは違う。

岡田はい。明確に。

その距離感は、まさに先程話していた音楽としてのシンガー・ソングライター・ミュージックとの俯瞰的関係に通じるような気がしますね。

岡田言われてみればそうかも。でも、なんというか「人にわかられたくないけどわかってほしい」を繰り返している中で、まったく自分というものが反映されていないかといったら、明らかにされているとは思います。ただ距離の置き方をちょっと変えてみようと考えたんだと思います。

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