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Okada Takuro オフィシャルインタビュー

タイトル曲「Morning Sun」は森は生きている時代からの盟友である谷口雄さんと共作したものですよね。これはどんな風に作っていったのでしょうか?

岡田これまでずっとギターで曲を書いていたのですが、今回はギター特有の和声感とは違ったアプローチを試みたいというボンヤリとしたアイデアがあって。で、そこに意識的に取り組む中ではじめにできたのが「Morning Sun」ですね。作曲クレジットは谷口くんとの共作となっていますが、彼がなにか特定のメロディーを産み出したというわけじゃなくて、何度か僕の家で鍵盤的なアプローチの特性を解説する講義を開いてくれて(笑)。僕の頭の中で鳴っている和声感がどうやったら出るのかというディスカッションの中で、この曲ができたんです。

シンプルながらこれまでにまして和音のふくよかさを感じます。

岡田主に、ヴォイシングによるシンプルな和声の滲ませ方、ベース音の置き方について話し合いました。彼がいなければこの曲はできていないですね。ここを起点にして、同様の方法論を発展させて他の楽曲の制作も進めていきました。

谷口さんは録音にも全面的に参加していますね。他には同じく元森は生きているの増村和彦さんがドラムに加わるだけのミニマムな布陣ですね。

岡田こういうシンプルな編成に至ったのは、音数自体は少ないけれど、そのひとつひとつが多くの情報量を持った音楽にしたい、という思いからでした。ディティールのひとつひとつに輪郭を持たせる方が、生楽器を扱うにあたっては今日的なアプローチなんじゃないかと思って。そういう視点でニール・ヤングの「Out on the Weekend」や、ボブ・ディランの「Dear Landlord」を聴き返すととても魅力的に感じたり。

気心知った仲間ならではのやりやすさもあった?

岡田そこも大きいですね。いわゆるセッションマンというよりは、飲み屋やディスクユニオンで約束せずとも偶然会う地元の友達みたいな関係の人と作りたい、と思っていたので(笑)。それこそアンディ・シャウフやコナン・モカシンのバンドもそんな感じですよね。
そこで顔が浮かぶのはやっぱりバンドで苦楽を共にしてきて話の早いこの2人でした。ピアノに関してはヴォイシングのひとつひとつを、ドラムについてもキックの位置やフィルもすべて自分が指定したかったので、そういった意図を彼らなら汲んでくれると思ったんです。
そうなると、あまり沢山の人を呼ぶというよりはちゃんと時間を割いてくれる人にお金をしっかり渡したいと思って。インディーでやっていると「お金のことはまあいいから」みたいなのについつい甘えがちだけど、このご時世、できるだけそういうことはしたくないし……。まあ、夜中の3時とかに電話で叩き起こされても僕の相手をしてくれる人と制作したかったっていうことですかね(笑)。

ははは。

岡田結局、「今この人を呼んどくとアルバムは盛り上がるよね」みたいなの発想から離れたかったっていうのもあります。もちろん素晴らしいミュージシャンが沢山いることは知っているんだけど、それに流されると結局はシステマティックに動くメジャー・レーベルのおじさんが考えるプロダクションみたいになってしまうし。

なおかつ、アルバムの音楽性に照らしても華やかな参加情報はいらない、と。

岡田そうですね。

編成はもちろん、でき上がったアンサンブルや音響の面からも削ぎ落とされた印象を強く感じました。

岡田そこは明確に意図した部分ですね。USインディー、特にポスト・ロックからブルックリン系全盛期への流れもそうだったし、ある種音楽的なバラエティの行き詰まりを経たのちに、音のテクスチャーをポスト・プロダクション的にいじくることでどうにかするみたいな感覚がここ10〜20年ありましたよね。僕もその時代に多感な時期を過ごしたからそういう音楽にはすごく感化されたし、今でも魅力的だと思うけど、今回、そうじゃないアプローチをしたほうが明らかによりよい未来が待ってそうな気がして。さっきのヴォーカルの話と同じく、僕の音楽ってどうしてもテクスチャー的なところへ回収されてしまうことが多かったと思うし、実際自分もそういうのを強みにしてやってたけど、今回はそこから方向転換を図って、ただ「良い曲」に立ち戻ってみよう、と。テクスチャー重視でいけば「めちゃくちゃ頑張ってミックスして偉いアルバム」って言われたかもしれないけど(笑)、それは避けたかった。

たしかに、いま話してくれたみたいな「音響の飽和」を経てどうするか、というのは今最も先鋭的な問題意識なように思います。それをもって「テクスチャーからソングへの回帰」といってみてもいいのかもしれないけど。

岡田なんというか、最近では「テクスチャー」という概念が、ふわっとしたシンセのパッド音を潜り込ませたり、グリッチの音が尖ってるとか、そういう傾向を表す言葉に収束しちゃったようにも思っていて。だから正確には電子音や編集主導の「テクスチャ−」という概念の飽和、ということなのかもしれない。だからむしろ、一つ一つの楽器の音色、それこそを本来の意味での「テクスチャー」というとするならば、音色それ自体にフォーカスすることによって楽器自体の「質感=テクスチャ−」が立ち上がってくる、という内容にしたかったんです。

ではマイキングからそのことを相当意識して……?

岡田はい、普段よりマイクを沢山立てて、ひとつひとつの楽器の音をすごく丁寧に録っていきました。楽器の空気振動音の中から「質感」を探し出すイメージですね。

そういう視点で聴くと、改めてエレピの音とかも相当にネイキッドだなと感じます。一方で雑というわけじゃなくて、すごく繊細な響きを内包している。

岡田ぜひそこまで聴いてもらえたら嬉しいですね。

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