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スピッツ 「小さな生き物」

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オフィシャルサイト(JP)
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青野圭祐─2013.9.12─

先日、シングル「さらさら/僕はきっと旅に出る」のレコメンドを書かせていただいた、スピッツがおよそ3年ぶりにオリジナル・フルアルバムを発表しました!それが今作、『小さな生き物』です。

もちろん、「さらさら」も「僕はきっと旅に出る」も収録されています。

B面曲集のスペシャルアルバム『おるたな』のレコメンドでも、書かせていただきましたが、スピッツに関しましては、最早、前置きは余計ですよね。

現在の邦楽ロックシーンでポップかつオルタナティヴというスタンスを常に維持し続けて、ライトな音楽リスナーの方にもコアな方にも、愛され続けてきたロックバンドです。でも、この「ポップかつオルタナティヴ」という在り方が、今作では、ほんの少し変わっています。


思い返せば、前作『とげまる』は近年のスピッツでは、なりをひそめ気味だった、彼らのフェイク性、嘘、そしてポップなメロディの裏に潜む猛毒のようなものが存分に鳴らされていて、しかもそれがひねくれて出たものではなく、純粋であるがゆえに抱かれた毒であることがうかがえる傑作でした。アルバムはじめの「ビギナー」から純粋な少年がどんどん「とげ」を露にしていき、自分でも自覚しないまま歪んでいき、遂には最終曲に至る「どんどどん」、「君は太陽」で背徳の色さえ見えるという、素朴なのにその裏でドギツい情感が沸き起こっている…というアルバムでした。

純粋であるがゆえに、それから逃れられず、どんどん歪み溺れていく…という、当時のスピッツの最骨頂とも言うべき世界を通り過ぎて、リリースされたのが、今作『小さな生き物』です。


そこで鳴らされるのは、『とげまる』では、自分自身で歪んでいっていることに自覚していなかった(ような世界観の)まま純粋がゆえにドギツいカラーを出していたスタンスを、自分自身で「歪んでいる」、そのことを受け止めながら、その歪みを否定することなく、むしろ歪んでいると認めているがゆえに、不器用な形でも「君」に届けられる、そして「僕」が「僕」であるまま旅立てる…歪んだものが歪んだものに出会う、そしてその歪んだ「僕」と「君」が手を伸ばす、そんなアルバムになっていると思います。

そしてそれはスピッツの初期の三部作(『スピッツ』、『名前をつけてやる』、『惑星のかけら』)で聴くことができた歪みを、歪んでいるから妄想の中に潜り込む…という段階ではなく、歪んでいても、そのまま…歪んだまま、毒を抱えたまま、同じく歪んでいるかも知れない「君」と出会う、「君」を想うという、とじ込んでいるのでなく、ひらけてきた段階のアルバムになっているとも思えます。

先にレコメンドさせていただいた、「さらさら」の歌詞にはこんな一節があります。

"ゆがんでいることに甘えながら 君の指の冷たさを想う"

そんな感情を抱えながらも、「君」と出会うために旅立つアルバム、『小さな生き物』。


さて、早速、タイトルトラックでもある、「小さな生き物」のMVをご覧下さい。



ミニチュアの地球とそこで演奏するお馴染みの4人のメンバー!ピンクのシャツを着てストールを巻いたまま、澄んだ目で歌う草野マサムネさんが特に素敵です!そして、次々と映されるミニチュアの街並、港、公園…「小さな生き物」たちが住むところ。そして最後のシーンにはグライダーで飛び立つ青年。"小さな星のすみっこ" で営まれる暮らしと、もう一度、アホなまま出会っていこうとする人たち…。

今作の世界観の大きな部分を綺麗に映像化しているように思えて素敵です。

これはあくまで僕個人の考えなのですが、今作の『小さな生き物』というタイトル、英訳すると「The Little Animals」ではなくて、あくまで「The Little Creatures」だと思えるのです。不細工でも不格好でも、歪んでいても、クリーチャーのまま "アホな夢見てる" 、"それでも進む" 感覚、それを芯から感じられます。だって "裸の言葉 隠さずさらす そこから始めよう" なんて地平に、スピッツは辿り着いたのですから!



と…最初からこんな勢いで書いてしまうと、もうレコメンドが終わってしまいそうですね(苦笑)。もちろん、それはあまりにもったいないので、もう少し詳しくみていきたいと思います。

残念ながら、現時点で今作に収録されているMVでオープンに公開されている曲は、先の「小さな生き物」と「さらさら」のみなので、MVを交えてお伝えすることはできません(このアルバムは3つのバージョンでリリースされていて、その内2バージョンでは「野生のポルカ」のMVが付属されています)が、映像に続けて、次はパッケージの視覚面からみていきたいと思います。


今作のジャケットは、3rdアルバム『惑星のかけら』以来、実に21年ぶり(!!)に男性がジャケットに映されています(厳密には4thアルバム『Crispy!』もメイクアップした草野さんが映っているのですが、『Crispy!』は男性的と言うよりも中性的な感覚がします)。『惑星のかけら』では弓を構える少年(吉田健吾さん)が映されていますが、今作ではグライダーを手にして今まさに飛び立たんとしている男性(小林亮太さん)が映されています。

このグライダーを持った青年のイメージは内ジャケットでも随所で表れているのですが、もう一つ、『惑星のかけら』とアートワーク的な共通点があります。それはグライダー青年とともに映されている金魚!これ、『惑星のかけら』のアートワークでは、便器の中で泳いでいる光景(「波乗り」の歌詞が載っているページ)が、アイルランドの伝説的シューゲイザーバンドの1stアルバム『Isn't Anything』のジャケットを模したバックインレイ(裏ジャケ)のアーティスト写真とも相まって、まさにスペーシーでダーティ、キュートでグロテスクな空想と妄想の世界で遊ぶ当時のスピッツ、草野さんの感性を捉えているようであまりに衝撃的でした。

さて、その金魚が、今作のアートワークでは、グライダー青年とともに空を飛んでいるかのように映されています(この金魚は「りありてぃ」の歌詞に登場します)。
この感覚が、スピッツの初期から変わっている部分と変わらないで続いている部分を表しているようでもあって、素敵です。

また、パッケージについて見てみれば、今作は10thアルバム『三日月ロック』以来の、9月11日リリースのアルバムです。

『三日月ロック』の頃にも、草野さんは9.11テロに「大きな影響を受けた」と公言されていました(6thアルバムであり不朽の名盤『ハチミツ』の頃には、「阪神・淡路大震災やオウム事件に影響を受けた」とも仰っていました)が、今作も前作との合間に3.11…東日本大震災というあまりに大きな出来事が起きました。一時期はその被害の甚大さからメンタル面の体調を崩されてしまい、ツアーが延期になってしまった草野さんでしたが、今作は無意識にでも3.11の影響が出ている、特に「僕はきっと旅に出る」にはそれが表れていると語られています(この震災のことと本作、そして音楽…ひいては文化について後藤さんと語られたインタビューは、後藤さんが編集されているTHE FUTURE TIMESのウェブページで読むことができます。草野さんと後藤さんの濃厚な対談をぎゅっと凝縮したインタビューはこちらからどうぞ)。

この自分の妄想の世界に入り込むでも2人での関係に閉じこもるのでもなく、ひらけていくような感覚はこの影響も大きいのではないかと思えます。


サウンドの方は、パワーポップ調のギターロックとスピッツの王道メロディを基本としながら、これまでのアルバムよりもさらに多種多様なジャンルの音色を聴くことができます。

特にケルティックな要素満点の「野生のポルカ」(シンガロングのコーラスには4人のメンバーだけでなく、プロデューサーの亀田誠治さんに加えて、フラワーカンパニーズの全メンバーまで参加されています!)や、「ウサギのバイク」以来、実に22年ぶりとさえ思えるスキャット(言葉単体としては意味のなさない音をメロディにのせていく歌い方)を全面にフィーチャーしたタイトルもそのまんまの「scat」(「ウサギのバイク」では1番をスキャットだけで歌っているのに対して今回はまさかの全編スキャット!)や、メレンゲのバックでもプレイされている皆川真人さんの小気味良いシンセサイザーの音色とオルタナティヴなエッジのたったバンドアンサンブルの拮抗が心地いい「りありてぃ」や、実は草野さんと三輪テツヤさんを基本にしていてリズム隊のお二人は参加せずギター以外は打ち込みで構成されている「エンドロールには早すぎる」など、かなり様々なジャンルからの要素を感じられます。

また、それぞれサウンドだけをみると、「ランプ」は「群青」のカップリング(『おるたな』にも収録されている)「夕焼け」の、「オパビニア」は『さざなみCD』に収録された「ネズミの進化」の、「さらさら」は(これは当該のレコメンドでも書かせていただきましたが)同じく『さざなみCD』に収録された「漣」の、「遠吠えシャッフル」は1stスペシャルアルバム『花鳥風月』に収録された「野生のチューリップ」のエッセンスに近いものをそれぞれ感じさせながら、それらを「今」のスピッツの感性で鳴らし、更新することに成功しています。

そして、「できるだけシンプルに伝えたい」という草野さんの考えから、ほとんど全ての曲は3:30〜4:00と短いポップに仕上がっています。

そんな短め曲たちから多種多様な音が聴こえてきても、今作『小さな生き物』は、どの曲も根底するカラーが近いがゆえに、散漫な印象は全く受けません。その通底するカラーは、先にも挙げた歪んだ不器用なクリーチャーのまま、その歪みを自分自身で受け止めて、その歪みを否定することなく、いやむしろその歪みがあるからこそ、同じく歪んでいるかも知れない「君」と出会うためにある、旅立てるのだという感覚だと僕自身は思います。

そういった意味では、『三日月ロック』に収録された「ババロア」の歌い出しである"輝くための偽物さ だから俺は飛べる"という感覚を、そんなに偽悪的にではなく、「歪んでいるし偽物かもしれないよ?それでも『君』に会いに行く、変わっていく、旅立つんだ」という風に、フラットに歌い切った世界観があまりに切なく映ります。

それは1曲目である「未来コオロギ」からそうです。"堕落とされた 実は優しい色 やわらかく 全てを染める" と、例えば『フェイクファー』の頃では「フェイク」であることに溺れていたのをむしろ、「堕落である」と全面で認めて肯定的に受け止め、"輝く証に 変えてく" と決意表明を歌っています。また、この曲、面白いのが、"忘れないでね 大人に戻っても" というフレーズ。普通、「子供に戻っても」というところが、スピッツの場合、真逆で、"大人に戻る" と歌われています。「未来コオロギ」=現在のスピッツと一緒にいる時は子供になれる時間のように歌われます。でも、それは例えば初期の三部作のような1人の妄想の世界ではありません。"君に捧げよう" というように、「僕たち」で夢想していく時間でもあります。

「堕落と言われているものだよ、でもそれでもってこそ今ここを染め上げるよ」という始まりから強い意志が感じられます。

「りありてぃ」でも同じテイストが出ています。"正しさ以外を欲しがる 都合悪い和音が響き 耳ふさいでも聴こえてる 慣れれば気持ちいいでしょ?" 、水槽の中で外の世界を夢見ながら、それでも剥き出しでぶつかり合う2匹の金魚の世界。

そして、「オパビニア」で、これらの想いは "妄想から 覚めてここにいた" と、あくまで妄想の世界ではなく、今ここに広がる現実のそれであることが示されます(しかもそれに続くフレーズは、"意味は無いのかもね だけど幸せ つながった時には"!)

「野生のポルカ」でも "エサに耐えられずに 逃げ出してきたので 滅びた説濃厚の 美しい野生種" として、駆け抜けていくことが示されています。特に、"純粋そうなそぶりで 生きのびてきたから 裏切られた分だけ 土を跳ね上げて 叫ぶ 笑う マネだっていいのさ" の一節は、まさに『とげまる』から今作『小さな生き物』のスタンスの変化を一言で言い切ったかのようで、素晴らしいです。

「遠吠えシャッフル」では歌い出しから、"正義は信じないよずっと" と、草野さんの美麗な歌声にのって実はかなり攻撃的なフレーズが歌われています。これ、1stフルアルバム『スピッツ』に収録されている「トンビ飛べなかった」の "正義のしるし 踏んづける もういらないや" というフレーズが思い出されますが、「トンビ飛べなかった」が若干、逆ギレ気味(笑)なのに対して、こちらはむしろ「正義を信じない」ことなど、あたかもデフォルトであるかのように歌われていて、その上で "いけない願望"を"つかまえる" ためのものであることが歌われていて、痛快です。

そしてリリースされるや否や多くのファンの方のハートを鷲掴みにしたと言われている、ツンデレ讃歌(??笑)、「潮騒ちゃん」は特に素敵! "ばってん もう やめたったい こげなとこから" とスピッツとしては初めて草野さんの地元の福岡弁の一節があまりにキュートですが(これまで、草野さんの地元、福岡の要素を混ぜた曲は「天神駅」という言葉が織り交ぜられた「さわって・変わって」だけだったので、本場の福岡弁の歌詞が聞かれるのは素敵です!)、"きらめくファンシーな世界には 似合わねーって 茶化すなよ" や "偉大な何かがいるのなら ひとまず 放っといて下さいませんか? 自力で古ぼけた船を 沖に出してみたいんです" など、"団体行動" に合わず、不器用な1人のまま「君」=「潮騒ちゃん」と一緒にファンシーな世界に逆転ゲームで行きたい!という感情が溢れていて素敵です。

"ネバーダイです" なんて、わざわざ「です」を付けるところが、良い意味で相変わらず僕達のスピッツ!と言う感覚もあったり。


このように、『小さな生き物』は歪んで不器用な「僕」のまま、その歪みや不器用さを受け止めた上で、自分の力だけで、同じく歪んでいるかも知れない「君」と出会うため、旅立つというアティテュード(姿勢)が全面で見られます。皆で頑張ろう!というアティテュードではなく、団体行動は苦手なので、あくまで1人のまま旅立とうとするのがまさにスピッツの在り方とも思えます。

「小さな生き物」として、不器用で不細工なクリーチャーとして、"小さな星のすみっこ" に "守りたい生き物" がいるから、何度だって"アホな夢"見てしまいますよね。それを、歪んだ「僕」のまま、歪んだ「君」のまま出会うことができるなら…このアルバムはそんな想いをぐっと後押ししてくれます。

でもまだそんなのは怖く感じてしまうでしょうか。それでも大丈夫です。「きっと」旅に出られるはずです。"今はまだ難しいけど" で良いんです。きっと、"裸の言葉 隠さずさらす そこから始め" ることは、すごく難しいです。

でも、"未知の歌や匂いや 不思議な景色探しに" 、"約束した君を少しだけ待ちたい" 気持ちがあれば、きっと旅に出られるはずです。"愚か" でしょうか?

僕は、歪みをもったまま、それがゆえに、出会える、旅に出られる人は心の底から素敵だと思います(僕も旅に出たい!という気持ちを抱えつつ)。


さあ、"またいつか旅にでる" 時のために、"もう一度果てをめざす" ために、『小さな生き物』を聴きながら、旅立つための支度をゆっくりしていきましょう。


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青野圭祐

Web
https://twitter.com/ath_sj3

BIO
雑誌やウェブなど各メディアで音楽の書き物をしたり、Bathroom Sketchesというインディ・ロックバンドでギター/ヴォーカル/シンセサイザーをしたり、Moles Regimeというデジタルユニットで活動したりしている、京都の郊外出身の25歳です。
US北西部(ワシントン州シアトル)と愛媛県が好きです。
アイコンはイラストレーターの岩沢由子さんに描いていただいております。