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exlovers 「Moth」

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青野圭祐─2013.1.28─

前回の平沢さんのフルアルバムに引き続き、今年序盤の僕は、'12年度のベストアルバムに選盤していたにも関わらず、レコメンドできておれずにいたアーティストを改めてレコメンドさせていただきたいと思います。

今回は、exlovers『Moth』です。


実は、以下のレコメンド文は、昨年の6月25日、つまり、アルバムのリリースに際して書かせていただいたものですが、僕がレコメンドページの機能ミスをしてしまったことによって、アップされずにいたものです。時間的に今現在からご覧いただくとおかしくなる部分のみ修正して、あえて、それ以外の部分は昨年リリース直前だった頃のワクワク感を持って書いていた当時のレコメンド文にあまり手を加えずに紹介させていただきたいと思います。宜しくお願い致します。


(以下、昨年の6月時点でのレコメンド文です。リリースなどの時間のみを修正しております)
僕としては初めて英国からのアーティストをレコメンドさせていただきたいと思います。

今回は、昨年、Hostess Club Weekenderというイベントで、初の来日を果たした期待大のロンドンからの新人バンド、exloversです!

新人と紹介させていただきましたが、実は彼らは2010年の時点で自主制作されたEP(ミニアルバム)が、ここ日本の耳の早いリスナーの皆さんから絶賛をもって迎えられ、日本国内の特別なデビューアルバムとして、セルフタイトルの『exlovers』をリリースしていました。しかし、リンクに飛んでいただければ分かると思いますが、この日本国内の独自盤も今ではAmazonでも品切れ状態。それほどまでに、とても好評を得ていました。

個人的にも、僕が関わらせていただいている他メディアにおいては、'10年のベストアルバム10選で彼らを選んでいました。

そこで、(僕たち日本人からすれば特に)満を持してリリースされたのが、この全国デビューフルアルバム、『Moth』です。『Moth』も、ここ日本では国内盤が2ヶ月もはやく、4月の時点でリリースされていました。この事実だけでも日本での彼らの期待の高さが窺えるかと思います。


さて、早速、彼らの代表曲、「You Forget So Easily」のMVをご覧下さいませ!



絵画などのアート作品が乱雑に散らばった森の中で気怠そうに歌い、演奏するメンバー。その憂愁な雰囲気とアーティスティックでオシャレな感じに心惹かれます。

そして、サウンド…!!インディ・ポップを基軸に、憂いのあるアコースティックの繊細な音色(個人的には米国の孤高のシンガーソングライターだった、故Elliott Smithを思い出してしまいます)、そんな憂いをさらに引き立たせるかのようにシューゲイジング(シューゲイズについては、killing Boyのレコメンドを参照していただけると幸いです)な歪んだギターと男女混合のヴォーカル。まさに甘美的で、なおかつ、ほろ苦くもあるような音の世界に酔いしれてしまいそうになります。


exloversというバンド名、直訳すると「元恋人たち」。俗っぽい言い方をすれば、「元カノ/元カレたち」。そして曲のタイトルも直訳すれば、「君はそんなに簡単に忘れるんだ」…。このバンド名と代表曲のタイトルだけでも、彼らがかなり独自的で完成されているような世界観を持っていることが感じられるのではないでしょうか。

少々、余談ですが、個人的にはこのexloversと言うバンド名は90年代初頭に米国のワシントンDCから出て来て1枚のアルバムのみリリースしていった伝説的なインディ・ポップバンド、Black Tambourineの、その1枚のアルバム『Complete Recordings』の1曲めにある「For Ex-Lovers Only」という曲を思い出してしまいます。こちらも直訳すれば、「元恋人限定」という切ないタイトルです。


歌詞もメロ部分では、"それで僕はまたどこから始めたら良いのかさえ分からなくなっちゃうんだ。君を全ての場所から引き離してるのにさ(注:今までの海外アーティストのレコメンドと同様、訳は青野による意訳です。ご了承下さい!)"とか、サビでは"未来は僕に賛成してくれないって分かってるんだ。だって今まで僕はいつも君のサインを見逃してしまっていたものね。僕の記憶をなくして、僕自身をなくして…"と歌っています。

見事に、失恋の切なさ、やりきれなさと同時にどこまでも続く青の感情を歌い切っているように思います。


さて、新作であり世界的なデビューアルバムとなる『Moth』からのリードトラック、「Starlight, Starlight」のMVをどうぞ!



意図的にくすませて撮っているかのような効果的な映像で映し出される、恋人たちや子どもたち。どこか昔の記憶を思い起こしているかのようです。

それにも増して、素晴らしいのがこれまたサウンド!先の「You Forget So Easily」の憂愁はそのままに、青の衝動をさらに炸裂させたかのようにきらめくギターと緻密な楽器のバランスに脱帽します。

日本でデビューした当初から、彼らは米国ニューヨークから表れた00年代末のシューゲイズなインディー・ポップの大型新人、The Pains Of Being Pure At Heartとよく比較されていましたが、さらにデビュー当時のPainsに近くなりつつも、英国独自の皮肉っぽさを磨いているようにも思えます。

歌詞も、歌い出しから"思い出、思い出なんて忘れちゃったよ"と、そのキラキラしたサウンドとは対照的にさらに深く内省に入っています。2番のメロでも"約束、約束は決して叶わない。約束、約束、君は忘れちゃったよね…"と嘆いています。



きらめく衝動で耳馴染みの良いかなりポップなサウンドにすごく憂いに満ちた感情をのせる繊細に歌い鳴らす彼ら、exloversのスタイルは、日本国内のバンドでは、デビュー当時のスピッツが使っていた手法に近いエッセンスを英国流に表現したようにも思えますし、『Moth』は直訳すると『蛾』で、同じ蛾をジャケットにしたアルバム、『Flora』をリリースしてきたART-SCHOOLをも感じます。

このデビューアルバムは、日本でのデビューアルバムだった『exlovers』に収録された曲も新録されて収録されていますので、先の「You Forget So Easily」も新録バージョンを聴くことができます。


最後に、同じく『Moth』から「Blowing Kisses」のMVをどうぞ。



こちらは文字通りのガレージで演奏する彼らを観ることができる上に、その切ない感情を彩るかのように枯葉が舞い散る様が清冽です。


ここ日本ではいち早く高い評価を得て、どんどんリスナーを増やしていっている彼ら。是非、あなたも昔の恋人を思い起こしながら、刹那の衝動や哀愁とともに彼らの描く青の世界に分け入ってみてはいかがでしょうか。

僕自身は今年のベストアルバム10選の海外アーティスト枠でのランクイン最有力候補です…!!


(以上、昨年時点でのレコメンド文でした。少々ややこしい構成で申し訳ございません)


…と、ここまで、昨年の6月時点で書いておりましたが、本当に僕のベストアルバム10に入りました…!!(笑)

個人的にはベストアルバムの記事でも書かせていただいておりますが、12年度は邦楽からの選盤が多かったので、洋楽としては実質、このアルバムがベスト1になりました。今、改めて聴き返しても昨年のレコメンド文に書かせていただいたような切ない気持ちになります…と言う訳で、あえて当時の熱量のレコメンド文に手を加えず、紹介させていただきました。

改めまして、是非、あなたもあなたにとって大切だった人を思い起こしながら、哀愁の滲む世界に分け入ってみてはいかがでしょうか。

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青野圭祐

Web
https://twitter.com/ath_sj3

BIO
雑誌やウェブなど各メディアで音楽の書き物をしたり、Bathroom Sketchesというインディ・ロックバンドでギター/ヴォーカル/シンセサイザーをしたり、Moles Regimeというデジタルユニットで活動したりしている、京都の郊外出身の25歳です。
US北西部(ワシントン州シアトル)と愛媛県が好きです。
アイコンはイラストレーターの岩沢由子さんに描いていただいております。