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Motion City Soundtrack 「Go」

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青野圭祐─2012.6.12─

僕としては、久し振りの海外アーティストをレコメンドさせていただきたいと思います。

今回は、今年(2012年)のNANO-MUGEN Fesへの2日間出演がアナウンスされた、米国ミネアポリスからのMotion City Soundtrack(以下略称でMCSとさせていただきます)の新譜、『Go』についてです。


早速ですが、僕は先日、先述のNANO-MUGEN Fesへの彼らの出演が決まった時に、「遂にMCSがより多くの日本のリスナーの皆さんに注目される時が来たんじゃないか!?」なんて思ってしまいました。

と、言うのも、彼らは、その日本人にも馴染みやすいメロディーセンス、パワフルだけど戸惑いや憂いの見え隠れするバンドアンサンブル、陽気で豪快なポップパンクバンドを夢見ているのにどこか臆病で(褒め言葉として)オタクっぽいインドアボーイな雰囲気、そして何よりのヴォーカル・ギターのフロントマン、Justin Pierreの大の親日スタイルなど、僕たち日本人にとって、とっかかりやすいセンスをたくさん持っているそのポテンシャルから見てもまだまだ日本のファンを獲得できそうなのに、今一歩のところで日本国内で聴かれている範囲が狭いのでは…なんて勝手な懸念もしていたバンドだからなんです。

もちろん、僕の周りの音楽ファンの友人知人でも、公私問わず、日本国内の熱狂的なMCSのリスナーさんはおられますし、彼らが嬉々としてMCSへの愛を語る時、僕自身もつい話に熱が入ってしまいます(笑)。でも、だからこそ、もっともっとより多くのリスナーさんに聴かれたら…!!なんて思うこともありました。それに、プロフィールや僕の幾つかのレコメンドでも書かせていただきましたが、僕は一昨年は米国のシアトルで生活していました。そこで2度、彼らのライブを観る機会に恵まれたのですが、米国本国での彼らへの熱が日本にまだまだ本格的に伝わっていない…!!なんて思いもちょっと偉そうにも感じてしまいました。


でもここでNANO-MUGEN Fesという(ここonly in dreamsのレコメンドをご覧下さってる皆様にはもうとっくにお馴染みの)、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの皆さんがプレゼントする、邦楽洋楽混合の普段は邦楽を中心に聴かれている方へ洋楽への入口を提案するようなフェスに出演されることで、僕の偉そうにも思ってしまっていた不安も杞憂になるのではないか、と今から楽しみで止みません。



彼らの魅力について書くと長々となってしまいますが、リスナーの皆さんが感じていることを一言で表すならば、先にもすこし書いた「ハードなパンクサウンドに憧れている気弱なオタク青年のぶきっちょだけど真摯で誠実なエモーション」ではないでしょうか。


簡単に彼らの魅力を書いたところで、それでは早速、新作『Go』からの曲を!、と言いたいところですが、ここはあえて、新作からの曲でなく、彼らが過去にリリース4枚のアルバムからの曲を幾つか聴いていただきたいと思います。


まずは直近の過去作『My Dinosaur Life』から「Her Words Destroyed My Planet」。



アメリカの小学校の夏休みの自由研究の発表会みたいな場所で唐突にトロフィーを両腕に抱えて歌い出す、ロン毛を無造作に上にかきあげたような野暮ったいヘアスタイル(褒め言葉ですよ…!!笑)のメガネの青年が先のフロントマン、Justin Pierreです。

そして学生服姿で発表会をぶち壊していっているMCSのメンバーですが、何と言っても映像的な見所は、ラストのサビで披露される小学生が軽やかに踊っているにも関わらず、相変わらず野暮ったい感じになっているメンバーのダンスシーン…!!(このダンスシーンがアジカンの最新作「踵で愛を打ち鳴らせ」のMVでの後藤さんのダンスを思わせる、なんて感じてしまうのは僕だけでしょうか…!?:笑)一心不乱にダンスを踊っているにも関わらず、どこかファニーな感じさえ出てきてしまうのがMCSの面白さでしょう。

サウンドや歌詞の方は、軽快でパンキッシュなサウンドなのにサビなどで歌われているのは、"もし僕たちがもっと一緒にいさえすれば、こんなに離ればなれにならかったのかも。でも君がくれた言葉で僕の宇宙は無茶苦茶にされたような気分だよ"(訳は青野の意訳です。以下、引用する歌詞も同様でお願いします)と見事なまでに泣き言。メロディックパンクバンドなだけでなく、どこか不器用さが伝わるかと思います。ちなみにJustinのオタクっぽさや親日感もかなり出ていて、2番では"Xboxまで売ってハッパまで止めにして、今、僕はオンラインの講座を取って日本語を勉強してるんだぜ"なんて歌っちゃっています。


続いてパンキッシュなサウンドよりエモやパワーポップなどを感じさせるサウンドと憂いに満ちた歌詞が前面に出ている3rdアルバム『Even If It Kills Me』から「Broken Heart」。



この曲、元々の歌詞自体が言葉遊びを使ったものなんです。「Broken Heart」は英語で失恋を意味する慣用句なのですが、直訳すると壊れた心臓ですよね。そのまんまで歌い出しも、"僕はこの壊れた心から始めよう。ちょっと修理すればきっとすぐ直るはずなんだ"なんて言葉から始まっています。MVも言葉遊びを映像化していて、失恋によって傷付いた心臓が放り出されて、色々と孤軍奮闘しますが、うつになってしまって自殺を試みるけれど救出され、心臓の病を患っている女の子と病院で出会い、心臓は移植され女の子のものとして新しく生きる…これって僕たちの普段の失恋から新しい恋へと移る過程そのままですよね。

所々でシンセの響きが切ないサビの最後では、"孤独感は過ぎていく日々の中で毎日のように募っていく。でも僕はこの現状に慣れなてってるところもあるんだ。もちろん君もそうなんだろうね"なんて歌っています。


続いて同じく『Even If It Kills Me』から「It Had To Be You」をどうぞ。



こちらはメンバーの演奏シーンもあってライブ感もありますね。でもそれはお人形さんが観ているテレビの中で、お人形さんはそれを観ながら過去の彼女のことを考えてブルーになっています。

と、言うのも、サビで歌われているのは、"もしそれが君だったらどうだろう?君は本当に僕が長い間求めていた人だったの?何だか馬鹿みたいな気分になっちゃってるんだ"なんて言葉だからなんです。

そして最後にお人形さんは、元気を取り戻して、エアギターを披露し出しますよね。これも歌詞に連動しているかと思います。歌詞の最後は、"いや今なら僕は分かる。僕の方が間違ってたんだよ。もし君だったらどうだろう?いや僕は本当は知ってたんだ。ちゃんとそれは君だったんだよね"です。ちなみにお人形さんが読んでる音楽雑誌の名前は何と日本語表記で、まんま「雑誌」というタイトル(笑)。しかも表紙のMCSも日本語表記で「モーション・シティ・サウンドトラック」となっています(笑)。


続いては、1stアルバム『I Am The Movie』から「The Future Freaks Me Out」のオフィシャルライブ映像をどうぞ。余談ですが、この曲、僕がTwitterでハッシュタグにnowplayingを入れてツイートしたところ、後藤さんが「名曲」とコメントされていました。と、言うことで、後藤さんも認められる名曲になりますね。



この曲はアルバムからのシングルとしては、デビュー曲でもあるので、ライブでは何度もプレイされており、オーディエンスもシンガロングしていたりブレイク部分ではJustinがコール&レスポンスを求めたりと、とてもアツいショーになっていますね。曲自体もパワフルなバンドアンサンブルに行ったり来たりするシンセの音色が心をくすぐらせます!




新作のレコメンドなのに、過去の曲ばかり紹介してしまいましたが、MCSの今までの魅力をお伝えすることはできましたでしょうか。
では、ここからが新作そのもののレコメンドです!

MCSの5thアルバム、『Go』から、リードトラック「True Romance」をどうぞ!!



アルバムがリリースされたところなので(このレコメンドを書いている現時点でもリリース日の前日です)、まだMVではなく、視聴機のようなものですが、オフィシャルの動画です。

いかがしょう?先に挙げた曲たちよりも、ハードな感じはちょっと薄れはしたものの、シンセの繊細な音とリズミカルなバンドアンサンブルが一層切なさが増しているように感じます。

ちょっと批評っぽくなってしまって、恐縮ですが、MCSは今までメロディックパンクを基軸にエモ、パワーポップ、インディーロックなど様々なジャンルの目線からも好まれてきたバンドなのですが、今回はこのリードトラックを聴いただけでインディーロックに擦り寄った感じがします。しかも彼らのお得意のセンシティヴなエモーションをもっと奮い立たせて繊細に!


続いて同じく新作『Go』から「Timelines」をどうぞ。



こちらは歌詞がどんどん浮き出す感じですが、同じくMVというよりは、曲紹介動画みたいですが、魅力は伝わるかと思います。この「Timelines」は、先の「True Romance」よりJustinの美声に磨きがかかっているのが分かりますね。緩急のついた曲構成もその美声と重なって重苦しいというよりドラマティックに感じます。


 現時点でこの2曲がリードトラックなっていて、これらだけだと、新作はちょっと落ち着き気味なのかな?なんて思われるかも知れませんが、そんな事は無く、アルバム全体としてラストになっていくほど、どんどん曲調もアップテンポな曲が多いですし、このアルバム1曲め「Circuits And Wires」のオフィシャルの曲紹介動画をお聴き下さったら、激しい曲もあるのだなぁと思っていただけるかと思います。




全体的に過去のアルバムよりも、シンセの音色が前に出てきた軽快だけどセンシティヴなサウンド(Justinの美声がすごく良い形に活きているとも思えます!)になっていると思います。このセンシティヴな感じは、僕はMCSが「カッコ良いパンクバンドに憧れているけどダサい自分」を自分自身で認めたからこそ出て来た大人っぽさのように感じます。開き直りじゃなくて、「僕は僕でダサいまま精一杯やるんだ!」なんていう微笑ましい気合いが感じられますね。


それでは、再び過去曲のMVをいくつか紹介してまとめに入らせていただきます。

2ndアルバム『Commit This To Memory』のラスト曲「Hold Me Down」。



小気味よいサウンドなのにどこかセンチメンタルなものを思わせるサウンドとJustinの美声が切ないです。


4thアルバム『My Dinosaur Life』から「Disappair」。



こちらは怒りを直球で出したようなパワフルなサウンドで彼らのダイナミズムが伝わるかと思います。ちなみに歌詞では日本語の"Kamikaze"なんて言葉も出てきます(余談ですが、『My Dinosaur Life』の他の収録曲の歌詞には"1000yen"とか"Karaoke"なんて言葉も出てきますよ!:笑)


カッコ良いロックバンドでありたいと願いながらオタクな日々を過ごし、それでも全力でその内気さやシャイさを叫ぶMCS。

情けないけれど、ちゃんとその情けなさを自分自身で見つめながらカッコつけずに打ち鳴らすMCS。

僕たちのいつでも起こるような日常の喜び、哀しみをまっさらな感情のまま歌うMCS。

それは僕たち日本人の冴えない日常も、それでも続いていく日常とかぶるのではないでしょうか。Motion City Soundtrack、直訳すると「動き行く街のサントラ」。その冴えない僕たちとそれでも動き出す街並みは、この日本でも同じと思います。

そして新作のタイトルは『Go』。つまり「行け」。

さあ、MCSを聴きつつ動き行く街並みを、日常を、進んで「行きましょう」!


最後に。
僕がシアトルでMCSのライブを観た時、終演後にJustinとお話しする機会にも恵まれたのですが、僕が日本人と言うだけで「日本から来てくれてアリガトウゴザイマス!またヨロシクオネガイシマス!」と開口一番、日本語で挨拶して下さいましたし、その後も会話のふしぶしに日本語を織り交ぜて楽しそうに話していただきました。
そんなJustinなので、NANO-MUGEN Fesでも日本への愛と同時にアツくプレイしてくれることでしょう。楽しみです!

青野圭祐

Web
https://twitter.com/ath_sj3

BIO
雑誌やウェブなど各メディアで音楽の書き物をしたり、Bathroom Sketchesというインディ・ロックバンドでギター/ヴォーカル/シンセサイザーをしたり、Moles Regimeというデジタルユニットで活動したりしている、京都の郊外出身の25歳です。
US北西部(ワシントン州シアトル)と愛媛県が好きです。
アイコンはイラストレーターの岩沢由子さんに描いていただいております。