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Turntable Films オフィシャルインタビュー(後編)
(2020.11.11)

じゃあ、アルバムから少し離れて、まったく別のディメンションの質問です。そんなに興味はないとは思うんだけど、それなりに今の日本のシーン全体を俯瞰して見たりはするでしょ?

井上「どれくらい見ているかはわからないですけどね。」

(笑)ここ数年、米津玄師、あいみょん、Official髭男dism、King Gnu、ずっと真夜中でいいのに。とか辺りが流行ってるな、くらいのことで見ていたりはするでしょ?

井上「します、します。」

「聴いたことあるの?」

井上「スーパーとかで死ぬほどかかってるから。ずっとループしてるから、ちょっと歌えるくらい。」

「僕、宗さんがやってるポッドキャストの米津玄師の回を聴いて、アルバムを聴こうと思ったけど、最後まで聴けへんかったんですよ。自分のソロ( KENT VALLEY『MOMENTARY NOTE』)を出した時に、アジアのプレイリストで取り上げてもらったことがあったんですけど、その並びで今言っていた、ずっと真夜中でいいのに。とか米津玄師とかが入っていて。それで聴くと、自分が作っている側だからだと思うんですけど、めっちゃお金かかってるっていうところにしか目がいかない(笑)。自分が家でやっている打ち込みと音が全然違うんで。あとは、やっぱりそこまで日本語の曲を聴かないのは、音情報より先に言葉が先に頭に入ってきてしまうから、ちょっとしんどいってなりがちなんです。」

ただ、ここ10年間というのは、日本だけじゃなくて、スペイン語圏とかも含めて、グローバルなポップ音楽の世界で重要視されるのが歌詞だったこともあると思うんですね。ただ、歌詞の内容、意味だけではなく、それを歌うときのメロディ・フロウとか、どういう言葉を当てていくかっていうデリバリーに部分がより注目されることになった。プラスα、それが作家のアイデンティティやキャラクターと繋がっている部分に誰もが注目するようになったわけです――もっとも象徴的なのは、カーディ・Bですけど。それがここ10 年のポップ音楽における一番の変化だと思うんですね。それを前提に踏まえたときに、今からもう5年前になりますけど、前作『Small Town Talk』のタイミングで日本語のアルバムを作ったことには、どういったアイデアがあったのか教えてください。

井上「なるほど。えー、マジで何にもない。」

(笑)でも、あのタイミングでトライしたかった新しいことというのが日本語詞だったのかな、と思ってたんですけど。

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井上「そうです、そうです。それが日本語で書くことやったっていう。それと同時に、僕は描写は出来ますけど、自分のキャラクターと紐づけて直接的に伝える表現ってすごい苦手で。それは日本語で書いているときも自覚していたんですよ。周りの動きは書けるけど、自分の心情はよう書かんみたいな。それイコール、奇麗な文章は書けても、心をわかりやすくつかむ文章にはならないっていう。でも、そういうフワッとしたものでも人気出たりするやつもあるじゃないですか。そういう奇跡が起きないかなと思ったのもあるし(笑)。それなら自分にも出来るから、それの最善を尽くすっていう感じでしたね。」

今回の“Summer Mountain”や“Hollywood”には部分的に日本語が使われていますけど、明らかに日本語を細かく刻んでいくっていうデリバリーだと思うんですね。でも、前作の場合、16のフィールがあるビートに、休符少なめ、ゆったりしたメロディ・フロウに、サスティーン長めの言葉を乗せていくという方向性だと思うんですね。前作の時点で、大きめのメロディを乗せていくっていうのは、どういう意図や目的があったんでしょうか?

井上「今になってわかったことなんですけど、日本語で大きく乗せるのはそんなに難しくはないんですよね。だから、当時の自分の力で出来るのはあれだったんですよ。ブラック・ミュージックの歌ってすごい裏拍ですけど、それを日本語の譜割でやるのはめちゃくちゃムズい。“Hollywood”はゴッチさんが歌詞を書いてくれたんですけど――英語でふわって書いていた時、ちょっと違和感があったんで。ゴッチさんが書いてくれた歌詞を歌ってみて「すごい、こんな歌詞乗せられるんや」と思ったんですけど。でも、そのときは全然わからなくて。だから、“Summer Mountain”はわりと英語で書いていますけど、日本語のパートはすごい細かく切って、連なりとかほとんど無視していて、無理なところは英語で行ってまえ、みたいな感じなので。取りあえず休符で行けるところ、自然な日本語で当てはめられるところは日本語でやる、みたいな方向に変えました。そういうやり方が出来るって気づいたっていう。でも、難しいですね。」

すごい失礼なこと言うとね、今回の“Summer Mountain”や“Hollywood”のような、裏拍を意識する、跳ねを意識する、休符を意識する言葉の乗せ方が前作にあったら最高だったのにな、とは思いました。

井上「いや、それは仰る通りだと思います。あのときは歌詞に合わせてメロディも変えていたんですよね。今回は「そればっかりはするまい」と思って。だから、結果的に英語の歌詞が多いんですよ。自分で歌って練習してみて、なんでギターはこれなのに、こんなに歌はシンコペっぽいというか、休符が多くて歌いにくくて、練習が面倒臭いんだって思ったんですけど(笑)。だから、前作のときは出来なかったんですよね。でも、それはむずいで(笑)。」

ただ、コンビニから流れてくるような音楽も含め、それなりにその難しさに向き合いつつやっていると感じる作家や曲はあったりしますか? 井上君に関しては近いところではその難しさに腐心している後藤君というソングライターもいるわけじゃないですか。

井上「そうですね。みんな腐心しているように僕には見えます。特に海外の音楽に影響を受けて、日本語との狭間にいる人は。でも、それが成功しているのかどうか、答えが出るほど成熟していないというか。日本語ラップの方がわかりやすい形で出せるじゃないですか。一個、制約を取っているから。」

メロディっていう制約ね。

井上「それが面白く響くのはわかるんです。でも、それとは違うところでみんな頑張っていると思うので。やっぱりそれが出来るのって新世代じゃないですかね。それを狙って、マーケティングして出来るエロいオッサンがやれるんやったら、やってもいいと思いますけど(笑)。あんまり美しくない感じがしますよね。」

ただ、かつて大瀧さんや細野さんがやって、くるりの繁君が継承しようとした方向性とはまた違うスタイルのものを書いてみたいという文化的な野心があるかどうか、そこはどうですか?

井上「あんまり普段考えていないですけど、出来るならやりたいくらいかな。トライはしています。ときどき日本語で書いてみて。でも、答えはないですね。でも、切り分けた方が面白いのかもしれないですね。みんな、意味の繋がりとか気にせずやってたりすると思うんですけど、もっと切り離してやった方が面白く出来るのかなと思いました。」

でも、“Summer Mountain”の言葉のデリバリーを聴いていると、そこも期待したいなっていう。

井上「おおっと、それは言われると思っていなかったから、頭の片隅に入れておきます。」

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『Taxi Driver』Music Video / Gotch