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(2014.09.12)
THE RENTALS マット・シャープ インタビュー

タイトルが決まったことが、アルバムに取りかかる大きなきっかけになった

――今回のNANO-MUGEN FES.ではASHのTim Wheelerがサポートメンバーに参加していましたが、彼との交流はどんな風に育まれていったんでしょうか。

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「ASHが1996年にWeezerの前座を務めたんだ。彼は当時4歳くらいだったんじゃないかな(笑)。いつもニコニコ笑っている可愛い赤ん坊だったよ。今でも変わらないけどね。Timくらい常に笑顔を絶やさない人は他に見たことがない。音楽業界の歴史上最高と言えるくらい、彼は心底良い奴だよ。2011年に日本で震災があって、その年にNANO-MUGEN FES.に呼ばれた際、彼に電話をして『特別なことをやりたいと思っていて、ASHとして出演するなら、THE RENTALSにも参加して貰えないか』って聞いたんだ。彼は全く躊躇することなく『やるよ!』と即答してくれた。そういう仲間がいてくれるのは本当に嬉しいことだよね。Timは実はTHE RENTALSのセカンド・アルバムにも参加しているんだけど、2011年のNANO-MUGEN FES.の時に本当に久しぶりに話をしたんだよね。Timは96年の時と全く変わってなかった。熱意と興奮にあふれていた。だから今年も『NANO-MUGEN FES.を君なしてやるなんて考えられない』と言ったんだ。『Tim Wheelerならではのポジティヴ要素が欲しい』ってね。彼と一緒にやるのは楽しいし、できれば今後も何か機会があれば一緒にまたやりたいと思っている」

――『Lost in Alphaville』という今回のアルバムタイトルも、ASHの「A-Z」シリーズから刺激を受けたものという話を聞きました。

「う〜ん、それはYesでもあり、Noでもある」

――というと?

「何が起きたか簡単に説明すると、2009年に僕は大規模なアート・プロジェクトを企画したんだ。世界中のいろいろなアーティストを巻き込んでね。ゴッチにも手伝ってもらったよ。音楽に限らず、映像や写真のクリエイター達にも参加してもらって、彼らの作品を多くの人たちの目に止めてもらえればと思ってTHE RENTALS名義ではやったものの、THE RENTALSのイベントではなく、アートのイベントだった。ただ、内容があまりに多くて、期待したほど注目されなかった。ちょうど同じ時期にASHも「A-Z」シリーズをやっていた。次々と曲をリリースしてね。で、2011年に僕のほうのアート・イベントが終わった頃、Timが僕に「A-Z」の曲をまとめて送ってくれたんだ。それを聞いて僕はTimに言ったんだ。『この中には君の最高傑作もある。けど、曲が多過ぎて、その輝ける瞬間を人に聞かせるチャンスをみすみす逃してしまっている』って。で、『僕がこの中から特別だと思う曲を10曲選んで、曲順も考えて、必要ならリミックスもして、アートワークも付けて一枚の作品にするから、プロデュースさせてくれ』って提案したんだよね。で、実際10曲選んで曲順を考えてアートワークも考えたりして彼にまた連絡したんだ。『できたから送るよ。タイトルも付けた。『Lost in Alphaville』というんだ。どう思うか教えてくれ』ってね。それに対して彼は、『あのプロジェクトは自分たちの中で既に完結しているから、戻る気はないよ。でも、タイトルはすごくいいね』と言ったんだ。で、後になって、Timへのアドバイスはそのまま自分に当てはまることに気付いたんだ。つまり、その前に手がけた壮大なアート・プロジェクトも、その中から一番いいものを10曲選び出して「A-Z」でやったのと同じようにまとまりのある一つの作品にすれば良かったんだってね」

――そこからアルバムのタイトルが決まったんですね。

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「そう。人には客観的なアドバイスはできるけど、自分のこととなるとなかなかそうもいかないものだからね。僕は彼に宛てたアドバイスが自分にそっくりそのまま当てはまることに気付いた。と同時に、『Lost in Alphaville』というタイトルは、彼らにあげてしまうのではなく、自分の作品につけるべきだってことにも気付いたんだ。だからTimにまた連絡をして、タイトルを返上して貰わないといけないことを説明した。実際にアルバムに取りかかる前の話だったんだけど、でも新作のタイトルはこれ以外に考えられないという100%の確信があった。そして、タイトルが決まったことが、アルバムに取りかかる大きなきっかけになった。そこからどういう曲を入れるか、どの順番に並べるべきか、というのを考えて、作っていったんだ」

――アルバム制作の中で難航したところ、大変だったところは?

「『Lost In Alphaville』というタイトルが決まったところから、それまであった全ての音楽を排除してゼロから作っていった。自分たちが探しているものを一つずつ探して見つけていった。誰とやるか、誰に一番刺激を受けているか、といったことを考えながらね。まず最初に迎えたのがOZMAのRyen Slegrで、彼と二人で曲作りを始めた。それから、The Section QuartetのLauren Chipmanと一緒に作ったものの中からいいものを選りすぐって曲に仕上げた。それからシンセやドラムのサウンドで新しいことを幾つか試みてみた。その過程でThe Black Keysの Patrick Carneyと会い、彼が入ったことによってアルバムがぐんと激しくエネルギッシュになった。そして最後にLuciusのJess Wolfe と Holly Laessigとレコーディグをして完成させた」

男女のボーカルは、今となってはTHE RENTALSに必要不可欠な要素だと思う

――アルバムには女性ボーカルとしてLuciusのJess Wolfe と Holly Laessigが参加しています。彼女たちの歌声にはどんな魅力を感じたんでしょうか。

「まず言えることは、彼女達はこの地球上で僕が最も敬愛するシンガーだっていうこと。それに尽きるね。彼女達は二人で一人のシンガーだと思っている。二人の違う歌声が合わさって初めて一つの声が完成する。その声が僕にとってこの世で一番好きな歌声なんだ。彼女達のデビュー・アルバム『Wildewoman』は僕がこれまで聞いた中で最も完璧に近いデビュー・アルバムだ。これまでも多くの素晴らしい女性シンガー達と共演してきた。でも、Luciusの二人は僕がこれまで共演した誰よりも声の相性がいいと思っている。別のマイクを使って、二人向き合って同時に歌うんだけど、必ず2人が一人の声として歌う。バラバラに歌うことはない。非常にユニークで、ライヴも見ていて凄く面白い。だから次にTHE RENTALSが日本に行く時は絶対にLuciusを連れていきたいと思っている。彼らの直後に出たら絶対に食われてしまうだろうね(笑)。それくらい素晴らしい歌声なんだ」

――そもそもTHE RENTALSのポップソングにとって男女コーラスが大きな要素になっているのはどういう理由からなんでしょう?

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「そうなったのには幾つか要因があるんだけど、Weezerがまだ駆け出しでロスのライヴハウスでライヴをやっていた頃、個人的に一番共感できたバンドがThat Dogというバンドだった。彼らはドラマー以外3人女性のバンドで、3人のハーモニーがまた素晴らしかったんだ。で、THE RENTALSを始めた時、そのままWeezerのPatがドラムで参加してくれたのに、That Dogの女性ボーカルを迎えるという参加メンバーだった。それが始まりだったことがまず大きいね。ただ、男女ボーカルでやることで、商業的なヒットを望むのが難しくなるのも確かなんだ。聴き手はどっちに共感すればいいかわからないからね。ただ、僕の場合はニナ・シモーンやエラ・フィッツジェラルドやLuciusのような女性シンガーに『彼女達のように歌いたい』って憧れることのほうが多いし、男女のボーカルを上手く絡ませるか考えるのが面白いんだよね。参加してくれる女性ボーカルの声はどれも存在感が大きい。単なるバック・コーラスではないし、だからといってリード・シンガーというわけでもなくて。男女のボーカルがお互い不思議な空間を共有し、共存している。片方だけが一方的に物語を伝えているわけでもない。そういう部分が挑戦しがいがあるし、今となってはTHE RENTALSに必要不可欠な要素だと思う。もしシンセとドラムとヘヴィーなギターに僕の声だけでアルバムを作ったとしたらそれはTHE RENTALSではなくなってしまう」

――The Black Keysの Patrick Carneyのドラムもアルバムにおける大きな要素になっていると思います。彼はどんな貢献を果たした印象がありますか?

「彼が参加する前までは、全てを自分の自宅スタジオで作るつもりだった。そこで、無機質なSF映画的なドラムの音を思い描いたんだ。映画『BLADERUNNER』の世界観を彷彿とさせるような未来的で無機質なドラムの音を思い描いた。で、自分なりに70年代や80年代の古いドラム・マシーンを使ったりしてそれを形にしようとした。変なサウンドを上乗せしたりしてね。でも、それだと上手くいかない曲が数曲あって、僕は完全に煮詰まってしまった。その時にCarneyに連絡をして何曲か手伝ってくれないかってお願いしたんだ。彼が何年も前に『何か一緒にやりたい』と言ってくれたことがあったから。で、彼は『明日飛行機に乗って僕の家に来い』と言ってくれたんだ。で、言われた通り僕はナッシュヴィルの彼の自宅に行って、彼と初めて会って、2分後には二人でスタジオに入っていた。彼はためらうことなく思い切って曲に向かっていく姿勢がある。マイクを立てる前から『こんな感じでどうだ』『こんなのはどう』とガンガン叩いてくる。その時は彼が叩くビートを幾つか録音して持って帰って、それまで出来たものに当てはめてみた。で、彼に電話して、『いい知らせと悪い知らせがある』と伝えたんだ。『良い知らせは、君と録った音源はどれも素晴らしいよ。正に曲に命を吹き込むビートだ。悪い知らせは、その分、残りの曲がクソにしか聞こえないことだ』と言った。『だからナッシュヴィルにもう一度行って、アルバムの他の曲にもドラム・パートを入れてもらわないといけない』と伝えた。アルバムとして統一感を持たせるために、彼には全曲叩いてもらわないといけないと思った。だからThe Black Keysのアリーナ・ツアーが終わるのを待って、ドラム・パートを完成させたんだ」

Manchester OrchestraとLuciusはなんとかして日本に連れていきたい

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――2010年にはトリビュートアルバム『LOST OUT IN THE MACHINERY』もリリースされました。そのことはどんな刺激になりましたか?

「あれはもちろん格別に嬉しかった。自分の音楽を誰かに聴いてもらえるだけでも嬉しいことなのに、素晴らしいミュージシャン達が自分の曲をカヴァーしてくれるというのは、光栄なことであり、特別な気持ちになる。ただ、今作に直接の影響はないかな。今作を作る上で刺激を受けたものと言えば、さっきも話した2011年のNANO-MUGEN FES.だったし、それに今回アルバムに参加してくれたミュージシャンから直接受けた刺激も大きかったから」

――どんな刺激が大きかったんでしょう?

「LuciusのJessとHollyからもたくさん刺激を貰ったし、Ryen Slegrの独特なギターもそうだね。あとは、Manchester Orchestraというバンドが大きかった。ヘヴィなロック・バンドという点で、彼らは今アメリカで一番いいバンドだと思う。曲作りの才能も素晴らしい。彼らのアルバムを聴いて驚愕したよ。『なんて素晴らしいバンドなんだ』ってね。『めちゃくちゃすごいじゃないか』と言ったら、『僕たちなりの『Pinkerton』です』と言われたけど、僕からしたらまるで別次元だったよ。そこから受けた衝撃が、大きな刺激になった。彼らにいい意味で挑戦状を突きつけられていると思ったんだ。彼らの音楽を聴いた後、自分の作っていた曲を聞くと全く迫力に欠けていた。THE RENTALSとしてもっと良い作品を作らなきゃ駄目だって身が引き締まる思いだった。そう思わせてくれたという意味で、今回のアルバムを作る上では一番影響があったかもしれない」

――THE RENTALSとしてのこれからの目標は? 

「THE RENTALSとしてこれまでで最高の音楽を今作っているという手応えがあるから、できるだけ多くの人にこのアルバムを聴いてもらいたいと思っているし、みんなが気に入ってくれて、『こんなTHE RENTALSをずっと待ってました!』というような反応を示してくれることを願っている。それ以上の嬉しい刺激はないからね。そして、さらにいい作品を今後も作っていきたいと思っている」

――今日はどうもありがとうございました。また日本でTHE RENTALSのライヴが見られるのを楽しみにしています。

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「そうだね、また是非日本でライヴをやりたいと思ってる。で、そのときにはさっき言ったManchester Orchestraを連れていきたいと思ってるんだよね。彼らはまだ一度も日本に行ったことがないんだけど、THE RENTALSにも参加してもらいつつ、自分たちのライヴもやってほしい。Luciusもなんとかして連れていきたいと思う。今一番日本のみんなに見てもらいたいバンドだからね。もちろんTHE RENTALSでも彼女達に歌ってもらいたいし、Luciusでもライヴを披露してもらいたい。本当に美しい歌声だから。何とか実現したいと思っているよ」

ライブ撮影:TEPPEI、Kazumichi Kokei

THE RENTALS

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Lost in Alphavile
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2014.8.13 ON SALE 日本先行発売 / ODCP-007 / ¥2,000(税抜) + 税 / only in dreams / 株式会社 KADOKAWA