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INTERVIEW

LINK『太陽と月のビートニクス』オフィシャルインタビュー

LINK『太陽と月のビートニクス』オフィシャルインタビュー

LINKが12年ぶりのアルバム『太陽と月のビートニクス』を完成させた。今年3月にはonly in dreamsから『月の花 EP』をリリース、そして同時に旧譜をサブスク解禁。その流れで、今作も同レーベルからのリリースとなる。バンドと共にプロデュースを務め、ミックスも担当したのは、EPと同じく後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION、Vo/G)。そこで今回、LINKのメンバー3人、柳井良太(Vo/G)、小森誠(Vo/B)、山上教経(Dr/Cho)、そして後藤と、LINKとは旧知の仲である喜多建介(ASIAN KUNG-FU GENERATION、G/Vo)に参加してもらい、『太陽と月のビートニクス』の魅力を解き明かすインタビューを行った。
“ビートニクス”を掲げているだけあって、柳井の詩人としての魅力が冴え渡っており、さらに曲、演奏、音、すべてに3人の生き様と時代の空気も生々しくパッケージされた、愛あるパンクロック・アルバム。ぜひ触れて、感じてみてほしい。

文:高橋美穂
(2023.12.1)

いちばん客観的な言葉を聞けそうということで、まずは喜多さん、『太陽と月のビートニクス』を聴いた率直な感想を教えてください。

喜多建介「いちLINKファンとしては、こういうアルバム待ってたぞ!というようなものになっていると思いました。言葉も入ってくる感じがあって、曲調のバランスもいいし。あとは、ゴッチがプロデューサーで入った効果ってどんな感じなんだろう、みたいな聴き方もしましたけど、音もよかったですね。ギターとか歌とかコーラスとか、ジャッジがうまいんで。リズム隊のジャッジがどうだったのかは、僕は逆に知りたいですけど。すごいかっこよかったです」

その後藤さんは、プロデューサー目線、エンジニア目線も踏まえて、どんなアルバムができたと思いますか?

後藤正文「パンクロック、3ピースのバンドの録音って、今、いちばん難しいんじゃないんですかね。グリーン・デイだって悩んでいると思いますよ。世の中的には、デスクトップで作っている音楽がほとんどなので。そんなに大掛かりな予算をかけてドラムを録音したりはしない、みたいな。なんならギターも大きな音で鳴っていない音楽が世の中には増えていて――ちょっと流れが変わってきたけれど、こういう形態のバンドが世界的には多くないなか、どうやって3人の演奏をちゃんと記録しようかなっていうところが、主題のひとつではあったんですけどね。3人が鳴らした音しか入っていないので。僕のコーラスやシンセとかは部分的には入っていますけど、サンプルを足したりとかはしなかった。たとえばドラムだったら、今は世界中のドラムがトリガーサウンドになっていて、叩いたそばからサンプル音源に差し替えられることが当たり前で、それはそっちのほうが聴きやすいからなんだけど、ノリくん(山上教経)のドラムあってのLINKでしょ、って。そういう考えは、他のパートについてもありました。あとは、楽しく録音しようっていうのもテーマで。現場が楽しければ、いい音が録れるから。仕上がりも、今持ち得る自分の技術で、2023年のLINKのいちばんかっこいい瞬間を記録できたかなと思います。もっと腕のいいエンジニアって、日本にも外国にもいっぱいいますけど、まあ、僕は僕なりに、僕のエンジニアの技術の記録としても、しっかり参加できた感じがしていて。とてもかっこいいし、潔いし、“これぞパンク”っていうアルバムだと思いますね。3人の人生を感じます」

今、ドラムの話も出てきましたけど、山上さんはどんなアルバムが完成したと思っていますか?

山上 「今やれることは全部できたと思うし、結構、いろんないい曲――遊びのある曲とかストレートな曲とか、バラエティーに富んでいて。よくできたなあっていうのと、さっき後藤くんもおっしゃっていましたけど、レコーディング――僕ら、そんな技術があるバンドでもないし、ちょっといい意味でガチャガチャしていますけど、それをパッケージしてもらえたというか、絶妙に録ってもらえて。変にきれいにした感じもないし、今の僕らのそのままを録ってもらえたので。大満足していますね」

だからこそ、リスナーには人生が聴こえてくるんですね。

山上 「うれしいですね、そう言っていただけると」

では次に小森さん、どんなアルバムができあがったと思いますか?

小森誠「このアルバムは、今まで作ってきたアルバムのなかでも、いちばんいいアルバムだと思っていて。それは曲もですけど、制作の過程ですね。後藤くんとこういう音楽を作りたいっていう話をしたのがコロナの前で、そこからストーリーがはじまって、たくさんのことを話して。録音するときに、オーバープロデュースにならないように、後藤くんがしっかりしていてくれたんです。僕らが音を重ねたほうがいいと思っても、(後藤は)もっとLINKの息吹が伝わるような録音をわかっているから、よりリアルな僕たちが伝わりやすい音を間違いなく選んでくれたんですね。それで結果的に、録音したものを家に持ち帰って聴いたりすると、こういうことか!っていうのがほんっと わかって、発見がものすごく多くて、勉強にもなったし。曲順を決めて、マスタリングが終わったときに、ああ終わっちゃったなって……喜びと寂しさが同じくらい来て。それぐらい楽しかったんです。思い出になることがいっぱいあったし、たくさん笑ったし、ほんとにいい経験ができた。僕たちの人生が反映された、最高のアルバムができたと思います」

なるほどね。柳井さんは、アルバムができあがって、どんな手ごたえがありますか?

柳井良太「自分たちのなかで、今の最高の、めちゃくちゃいいものができあがったと思っております。世界とか今の日本に一石を投じるような音源になったので、やった甲斐があったと思う。これが発売されるのがすごい楽しみだし、俺たちの言っていることを聴いてくれ!って思える仕上がりになりました」

まず『太陽と月のビートニクス』っていうタイトルだけで、LINKらしい、最高なアルバムが想像できました。この由来を教えていただけますでしょうか?

柳井「ビートニクスという言葉を使いたいと思っていて。15年前とか20年前ぐらいから、詩を書いていまして。自分の脳みそを一回空っぽにして、無の状態で、脳から直接ペンが動くものを詩に仕上げるっていうのを、すごくやっていた時期があって。それが今500篇ぐらいあるんですけど。自分のルールとして、A4の白い紙いっぱいになるまで書くっていう。だいたい5分ぐらいで書くんですけど。それで、できあがったものを後から見返して、歌詞にしたり、しなかったり――って後者のほうが99.9%ぐらいなんですけど。今回、昔から書いていたものを掘り起こして歌詞にしたものもあれば、新しく付け足したり一から書いたりして。そういうときにビートニクスの本をたまたま見つけて、面白そうだなって読んでいたら、ジャック・ケルアックのビートニクスの技法みたいなことが書いてあったんですね。詩を書くにあたっての心持ちと手法みたいなものが、20何個あって、たとえば“家の外では酒を飲まないようにしてみる”とか、うろ覚えですけど。それらを見たときに、俺がやっていることと一緒だな、俺のやり方って間違えていなかったんだなって思って。そこからビートニクスのことを漁るようになって。それほど詳しくはないですけど、知識っていうよりは、その手法が好きだったので、自分の糧として活かして書くようになったものが、今回の歌詞のもとではありました。そういう意味でビートニクスっていう言葉を付けたのと。で、さらにそこに、太陽と月のもとで僕たちは生きているわけで“生活のなかのビートニクス”という意味合いで『太陽と月のビートニクス』になりました」

後藤さんは、このタイトルを聞いたときに、どう思いましたか?

後藤「いやあ、かっこいいと思いましたね。タイトルは最後まで悩んでいたんですけど、ビートニクスが入るのは、すごくいいんじゃないかと思いました」

柳井「『ビートニクス』にしようと思ったら、後藤くんが、俺らっぽい何かを付けたほうがいいんじゃないかって言ってくれて、太陽と月を足したんです」

後藤「ビートニクって、50年代のアメリカ詩人たちの運動のことで、一般的な言葉になっちゃうので、もう少し柳井くんの側に『ビートニクス』っていう言葉を引き寄せたほうがいいんじゃないかと思って。『ビートニクス』って、言葉が大きすぎるんですよね。ケルアックもそうだし、アレン・ギンズバーグとかウィリアム・S・バロウズとか、いろんな小説家や詩人がいますし」

そんなアルバムの1曲目「ブライトシティフォーエバー」は、自己紹介と文学性とユーモアが混じり合った、オープナーに相応しい楽曲だと思いました。楽曲の成り立ちを教えていただけますでしょうか?

柳井「今回アルバムを作るにあたって、EP(『月の花 EP』)もそうだったんですけど、後藤くんが僕の歌詞を褒めてくれて。今までの歌詞は、ちょっと難解だったり、詩的すぎたりしたので、ポピュラーミュージックの歌詞には向いていないと思っていたんですね。だけど、後藤くんはすごく褒めてくれて。曲の表面的な意味合いを褒めてくれる人はいたんですけど、後藤くんは詩的なところを褒めてくれて、そういうところを褒めてくれる人が今までいなかったから、すごくうれしくって。そこを今回は最大限に出せたと思いますし、歌詞の内容と言葉数の多さに繋がりました」

《笑っていいとも!》は、すごいフックになっていますね(笑)。

柳井「そうなんですよ(笑)。《掌で踊るブレイクビーツ 森田一義アワーで笑っていいとも!》っていう譜割りがメロディに嵌ったときに、これ、できるなって思いました。これを歌うのって、めちゃくちゃ難しいと思うんですよ。でも自然にできたから、これができたから俺、なんでもできるな、唯一無二の曲作りができるなって思えました。」

小森さんは、どんなふうに受け取りました?

小森「柳井はこういう歌詞を書くよねって思っていたので。ユーモアも持っているし。歌詞として入ってきたときも、そこまでトリッキーなことをしている印象もなかったので、そんなに違和感はなかったです。今回のアルバムでは、言葉を大切にしていて。柳井の歌詞を受け入れて、それをどう僕たちがサウンドに昇華させるかっていうのがあったので、僕もノリも常に歌詞のことは考えていました。どうやったら言葉が伝わるアレンジになるか、言葉が前に出るようになるか、っていうのは意識していましたね」

山上さんも、歌詞は意識しましたか?

山上 「はい。でも、それは今はじまったことではないと思うので。昔から柳井の世界観は出ているので、そこをいちばん伝えられる手法は探していますね」

歌詞が個人的にいちばん響いたのは『シンシャ』でした。どんな想いを持って、この楽曲は完成したんでしょうか?

柳井「この曲は全体のイメージがあってから歌詞を書きはじめたんですね。うーん……全部が歌詞に入っているので、説明もし難いんですが、この歌詞に関しては、詩的というよりは、シンプルに喋り言葉というか、比喩ではなくストレートな感じで作り上げようと。最後に絶望のなかから希望を見出すような曲にしたいと思いました。この曲は自分の曲でもあるし、自分じゃないあなたの歌でもあるっていう気持ちで書いたんです。最後に《君は素直なまま大きくなればいい》って口を出すのは僕の言葉なんですけど、そこまでの歌詞は、言うなれば過去の自分だったり、今そういうことを思っている誰かなんですね。25年、曲作りをしてきて、かなり大人になったので、投げっぱなしにはしないし。俺の経験はこうだけど、今の言葉はこうだよっていうものを込めた構成にしました」

後藤さんは今作の歌詞について、どう聴きましたか?

後藤「アルバム全体を通して、柳井くんの歌詞に対する向き合い方が、何段もギアが上がっているとは感じました。ボブ・ディランとか佐野元春とか、そういう人たちのことを引き合いに出して、同じ地平で書いてほしいって思っていたので。いろいろなチャレンジしていることが、言葉数も含め、遊び心も含め、よくわかるっていうか。何を言っているかわからないところもありますけど、詩ってそういうものじゃないですか。何を言っているかわからないところも含めて受け取ってどう考えるか、みたいなところが本質で魅力だから。グッとくるところは多いですよね。フィールで入ってくるっていうかね。あと、俺はロマンティックなところが好きですね」

どのあたりのフレーズに、それを感じましたか?

後藤「『シンシャ』なら《僕の宝物全部あげるから もう その扉は開けるな》とか、なかなか言えないですよね。ド直球を投げるロマンみたいなところもあるっていうか。あと、『SPEND THE NIGHT』の《温もりは心臓のビートさ ふたりのBPMのスピードさ》も、言葉だけだと恥ずかしいかもしれないけれど、柳井くんのメロディと歌と声で聴くと、すんなり入ってくる。それぞれ、そういう瞬間を見つけてほしいですね。この言い回しかっこいいなあとか、面白いなあとか。(プロデューサーとして)僕が気を付けたところを強いて言えば、書いたとおりに歌ってくれっていう。今回って、かなり言葉が先行していたと思うんですよ。メロディに対して、言いたいことのほうが溢れているっていうか、書きたいことのほうが溢れているように感じた。譜割りに対して言葉が多い、みたいな。想いのほうが先に走っていて、韻からはみ出るとか、音符が足りないとか。そういうところを端折ってほしくないな、ひとりの詩人として決着をつけてほしいなと。それだけを僕は見張っている役割でしたね」

たしかに、歌詞ありきだからこそ歌が難しそうだなっていう印象があったんですが、どうでした?

柳井「歌入れには練習して挑んだんで、スムーズと言えばスムーズで。あとは、後藤くんの録り方と僕の思っている感じが嵌ったのもありましたし。だけど、歌詞が聴き取れなかったりする部分もあって(笑)。そういうところは直してもらいました。ここの“い”を強調して歌うとか、ここの“て”を聴こえるように歌うとか」

後藤「柳井くんは、詩人としてはめちゃくちゃ努力するんだけど、ボーカリストとしては、マジで仕事の途中で飲みに行くヤツみたいな弱さがあって(笑)。そのギャップが酔いどれダメ詩人みたいな感じで、俺は好きなんですけど。でも、もちろんかっこいいボーカリストだと思っているので、そういう格好よさが詩人のところと等号で結ばれたらいいなって思って、ブースの外から応援していました」

なるほどね。ここからは、せっかくみなさんいらっしゃるので、おひとりずつに特に好きな曲、思い入れのある曲、エピソードがある曲を挙げて語っていただきたいんですが。まず喜多さん、いかがでしょうか?

喜多「『シンシャ』って、こないだ俺が観に行ったF.A.D(横浜)でやった?」

小森「やった」

喜多「そのとき、僕は知らない曲だったんですけど、サビの♪今夜生き延びられるだろうか、っていうところがかっこいいな、すごい勇気をもらえる曲だと思って。でも、帰りの挨拶がグダグダになっちゃって、そう思ったことを伝えられなくって(笑)。で、アルバムの音源をもらったときに、あのときやってくれたのはこの曲だ!って思って。ちゃんと音源で聴けてよかったっていうのと、さっき話に出た、最後に柳井くんがメッセージっぽく歌うところが、ザ・ビートルズの『アビイ・ロード』の最後の曲(『ジ・エンド』)みたいだなって。アルバムの最後に、いいメッセージを持ってきたっていう。感動で終わりました、このアルバム。曲順も最高じゃないですか」

ほんとに。小森さんは、さっきレコーディングが楽しかったっておっしゃっていましたけど、特に思い出深いエピソードや楽曲はありますか?

小森「いっぱいあるんですよ。大半がくだらない思い出ですけど(笑)。柳井が突拍子もないことを言い出したり」

後藤「俺がいちばんひっくり返ったのは“前ディレイ”(笑)」

前ディレイ?

後藤「自分が歌う前に、自分の歌が出てきてほしいっていうのを“前ディレイ”って言ったんですけど。ディレイって、歌ったことがやまびこのように響いていく、つまりエコーっていうことですけど、先回りしてそれを出してほしい、預言者みたいなエフェクトをかけてほしいっていう。無理だろ、って(笑)。コピー&ペーストっていうか、歌ったことを少し前の小節や拍に貼って、先に歌い出しているようにしてほしい――って言ってくれたらよかったんですけど。それを端折って“前ディレイ”って言ったんで、俺たちはそれがなんなのか全然わかんなくて、破滅的に笑いました(笑)。そんなエフェクトができたらノーベル賞がもらえるっていうか(笑)。歌っていない歌がそれを予見して実際に歌う前に出てきたらおかしいじゃないですか」

はい(笑)。

後藤「それが『SPEND THE NIGHT』なんですけど。あと、ノリくんにめちゃくちゃ詰められたことがあった」

山上 「(笑)」

後藤「俺が叩いていないドラムパターンが聴こえてくるんだけど、なんか余計なことしたんじゃないか、みたいな嫌疑をかけられて、深夜までド詰めされて(笑)。画面とかを見せながら説明して、なんとか着地できたんでよかったんですけど」

いろいろありましたねえ。

後藤「いろいろありました(笑)。めちゃくちゃ楽しかったですけれど」

そんな山上さんは、思い入れのある楽曲やエピソードというと?

山上 「ドラマーなんで、リズムにこだわっている曲っていうのはあって。『SPEND THE NIGHT』は、自分の好きな感じでやっているので、聞かれたらこれを言おうって思っていたんですけど。でも、それより『アンセム』が、後藤くんのアイデアでアレンジが変わって、ちょっとこんなのもどうかしら、って送ってくれて、それを聴かせてもらったときに、今までに感じたことがない『おお!』『うわ、素敵!』っていう気持ちになって。こんなにも曲って変わるんだって思ったので、すごく印象に残っていますね」

後藤さんのアイデアというのは?

後藤「コーラスワークが面白かったので、それを上手に使ったほうがいいかなって。バンド形態上、普通にやったらどんどん無骨になっていくんですよ。ドシャッ!って音で録って、めちゃくちゃコンプで潰して、グワッ!っていうライブ感を出すのがパンクバンドの音みたいになっちゃいがちなんですけど、LINKの曲って、もっと広がりがあるように感じて。ポップさとかも含めて、ポテンシャルがあるんじゃないかなって。なので、途中でコーラスが戻ってきたりするアレンジが面白いんじゃないかなって提案したら、気に入ってもらえてうれしかったです。やった!って思いました」

小森「めちゃめちゃよかったですね。もともとは『アンセム』っていう曲名ではなかったんですけど。アルバムのなかで、3分弱くらいのシンプルなパンクロックを作りたかったんですよ。ポップパンクというか、わかりやすい曲を。それで、いろいろ試行錯誤して書いたんですけど、最終的に嵌めた柳井の歌詞が、かなりよかったんです。メッセージ性がある、わかりやすく残るものを書いてきたので。それで、柳井とふたりでコーラスを作っていたときに、ちょっとアンセム感出てきたねっていう話をしていて。さらに、レコーディングに臨んだら、後藤くんが、俺らが思っているアンセム感に近いアイデアを提案してくれて。だからギリギリで『アンセム』っていう曲名に変えたんです。僕もすごく好きな曲ですね」

すごくドラマティックな流れですね。

後藤「曲が格上げされたぞ!と思いました(笑)。この曲はテーマが大きいですよね。めちゃめちゃイノセントな反戦歌だと思う。新しい戦争の時代に、2023年に、こういうことを歌うのは、ともすればお花畑とか揶揄されるかもしれないけれど、こういうことをまっすぐ歌うバンドがいなくなっちゃったら、それこそ世も末だろうって。俺はかっこいいと思いますね。《世界が暴力に満ち溢れても、俺達は愛のフラッグを掲げよう。》って、最高でしょ。Tシャツとかにしたほうかいいんじゃないかな、ほんと」

小森「たしかに」

喜多「(このフレーズを)何回も歌うのもいいよ」

後藤「そう、それがマジ最高なんですよ」

これを歌うのがパンクだし、これをかっこよく歌えるのがLINKだと思います。

後藤「これを歌える柳井くんが戻ってきた感じがしますね、長いキャリアを見ていると。かっこいい柳井くんが帰ってきたぜ!みたいな」

柳井「僕も、アルバムの11曲のなかで、敢えて1曲を挙げるとしたら『アンセム』なんです。パンクロックってなんだろうねっていう話を、ときどき友だちと酒の席で話すんですよ。そういうときに僕は、愛を歌うことが今のパンクロックだと思うって言うんですね。パンクロックには、世界とか、今起きていることに反抗するっていう信念があるので。今、日本や世界に足りていないのは愛なんですよ。そういうことを歌いたくって、この曲を書いたんです。愛があれば、戦争は終わると思っていて。そういう気持ちを込めた曲です。結局、僕らは音楽をやって、歌詞を書いて、曲にして、スタジオで合わせて、録音して、世に出していくんですけど。表現をする人たちは、絶対にそういうことをやめちゃいけないと思っていて。なんでかっていうと、表現によって、誰かが心を動かすことがあって、人の気持ちがわかるようになると思うんですね。そうなると、人にやさしくすることができる。そのやさしさが生まれると戦争がなくなると思うんです。なので、ずっと僕たちは愛を歌っていくことがパンクだと思っています」

今お話していただいたことが『アンセム』の歌詞、もっと言えば《世界が暴力に満ち溢れても、俺達は愛のフラッグを掲げよう。》の一行に凝縮されていますね。

柳井「はい。ありがとうございます」

後藤「フラッグを掲げるのがいいんだよね。愛を強要しないところがいいんだよね。僕からすると、そこが素敵だと思います」

柳井「この曲、小森が歌っているんですけど。アルバムのなかでは、いちばん最後に歌詞を書いたんです。いちばんストレートな歌詞を。だけど、まだ俺には歌えないかなって感じて。小森にこういう曲を歌ってほしいし、小森が歌ったらめちゃめちゃかっこよく仕上がるなって思って。でも、次の音源にあたっては、自分もこういう曲が歌えたらいいなあと思っています」

それも楽しみです。でも、小森くんのボーカルは嵌っていますね。

小森「よかったです。原型を作ったのは3年ぐらい前なんですよ。そこから形をめちゃめちゃ変えて、ようやくここにたどり着いた。シンプルなんですけど、時間はかかっているので、思い入れはあります」

今回、「桃色の日々」「二千光年のブルース」とか、柳井くんと小森くんのツインボーカルが映える楽曲も多いですよね。

小森「たぶん、僕と柳井の声って、混ざらないんですよ。それを昔はいいと思っていなかったっていうか。なんかバラバラに聴こえるな、ほかのバンドのあの感じが出ないなとか。でも、これだけ長く続けてきて、ここまでの個性はないなってわかったので。今回のアルバムでは、それがきれいな形でちりばめられていると思います」

そして個人的には「BLOOD RED SUN」がお気に入りでした。特にドラムの疾走感がたまらないんですが、山上さんいかがですか?

山上 「かっこいいですよね」

小森「この曲は、前のEPのレコーディングのときに、わりとしっかりした4曲を作っていくなかで、後藤くんが、もっとパンクとかハードコアっぽい曲を作ったら面白いんじゃないの?って。1分ぐらいの破滅的なハードコア作ればいいじゃん、そういうLINKを見たい人はいっぱいいるよって言っていて。ただ、僕たちのなかに、そんなにルーツとしてハードコアってないんですよ。マイナー・スレットとか大好きではあるんですけど。まあ、ルーツとしては高校生の頃に聴いたランシドぐらい。なので、一回ハードコアという概念を捨てて、ラウドで激しくて、言葉を畳みかけるような、何を言っているかわかんないんだけど、とりあえずヤバい、みたいな曲を作ろうと。思考の先を行く、じゃないですけど。それで『BLOOD RED SUN』ができました。Aメロは柳井が言葉を詰め込んでいて。そこは柳井にお任せして、メロディがあるところは僕が作って。なので、Aメロを作るのはかなり大変だったと思います」

柳井「そうですね。でも、ほかの曲と同じぐらいでした。一回持っていったものがダメになって直したりしたので、そのへんの葛藤はあったんですけど。だから、小森から見たら時間がかかったように感じたかもしれないですね」

小森「それで、僕らのやりたいことを後藤くんもわかってくれたので、ミックスでさらにヤバさを足してくれた感じです」

後藤「やかましいほうがいいのかなと思いました。この曲は、ほんとドラムの魅力が出ていますよね。ノリくん、音デカいんです。(伊地知)潔(ASIAN KUNG-FU GENERATION、Dr)よりもデカくって。もっと大きな部屋で録ったら別の音になったんでしょうけど、インディらしく小部屋で、アジカンの107スタジオで録ったので、ちょうどいいやかましい鳴りになって。この曲にはこういうラウドなドラムが欲しいっていう感じで、グッときますよね。シンバルのセッティングが高いんですよ(笑)。エンジニア泣かせのシンバルの高さ」

山上 「(笑)。うれしいですね、ドラムを話題に挙げてもらえると」

後藤「いやいやいや(笑)。はっきり言って、今回のアルバムのなかでドラムはめちゃめちゃ大事ですよ。ビートって大事で。LINKのこれまでの作品もめちゃめちゃ好きですけど、今回はちゃんとドラムがドッタンドドタン!って鳴っている、キックとスネアが鳴っている、そのうえで言葉があってベースがボトムにいてギターも鳴っている作品になってほしかったので。だから、ノリくんの打点が見えるようにしたいっていうのは、非常に成功させたいことのひとつだったんですよね。ドラムは、全編を通してかっこいいと思います」

山上 「ありがとうございます。やっぱ、生々しさがほんとちょうどよくって。今まで録ってくれたエンジニアさんも最高なんですけど、後藤くんはミュージシャンなので、そういう違いもあるのかなって思いました。それぞれよさがあるんですけど、後藤くんの音は、今までになかったような感じがして。人間らしさをよりよく出してもらったなって思っています」

後藤「キックも強弱ってあって。連続でドドンってあっても、大きさは一発目と二発目で違う。それを、最初は整える感じで持っていったほうが、現代パンクっぽくなるかなって思ったんですけど。だけど『それ違うよね?』っていう話を潔ともして。ノリくんの二連のキック、全部揃えていいと思う?って聞いたら、『いや、絶対やんないほうがいいと思う』って言われて。そっか、じゃあわかったって思って、叩いた音量のニュアンスってあるので、それをどうやって潰さないかってことを考えました。エンジニアのセオリーからは外れているのかもしれないけれど、そういうところを大事にしました」

山上 「ありがとうございます!」

後藤「いえいえ、素晴らしい演奏でした」

まだ触れていない、EPにも入っていない曲について聞いていくと『心優しき叛逆者』は、キャリアや年齢を重ねた今のLINKという感じがしましたが、いかがでしょうか?

柳井「この曲は、アルバムができあがってきた段階で、フック的な曲があったほうがいいよねっていう話をしていて、そのなかでできました。『アンセム』『月の花』『ブライトシティフォーエバー』とは手触りが違う曲です」

歌詞も詩っぽいですよね。

柳井「朗読するところはめちゃめちゃ詩ですね。言いたいことを言ったっていう。でも、Aメロは、歌いたい口の形でこういう声を出したいなっていうのに歌詞を嵌めて。もちろん詩的なニュアンスも入れてはいったんですけど。口が気持ちいい曲もライブで歌いたいなって」

『約束のハーバー』は? 《鹿児島から飛び立てば》とか、具体的な地名も入っていますが。

柳井「こっちのほうはストレートかな。結構リアリティも入っていますね。情景が目に浮かびやすいというか」

あと、『桃色の日々』は、ギターソロがすごく好きでした。

柳井「ありがとうございます(笑)。すげえ時間がかかりました」

そうなんですね(笑)。

柳井「シャッフルのリズムに近い感じのドラムとベースに合わせる作業が……合っていないと、すごく下手に聴こえるので。エイトビートって、こんなことを言うと怒られますけど、そんなにバレないというか(笑)。問題なく進んでいくんですけど。この曲はリズムがめちゃめちゃ出るので、だいぶ時間がかかったっていう。あと、ギターソロっぽいギターソロが、今回あんまりなかったんですけど、この曲はギターソロがあるから。何回もやり直しました」

そして「二千光年のブルース」は、ライブで柳井さんと小森さんの鮮やかなツインボーカルを見てみたいと思うような仕上がりでした。

柳井「まだライブではやっていないんですけど。僕も、演奏するのが楽しみですね」

そんな全11曲が入っていて、先ほども話に出ましたが、曲順も完璧だと思います。

柳井「『ファウンテン』は、EPでは4曲目だったんですけど、すごくシングル曲っぽいと思っているので、そういう感じで聴かせたくって。アルバムでは5曲目に持ってきたんですけど、歌の入りがめちゃめちゃかっこよく聴こえます。そうやって核となる曲がいっぱいあるんですけど、そのなかでもストーリー性を持たせて、最後に『シンシャ』で締めくくったっていう」

小森「曲順、完璧じゃないですかね。今まで何枚もアルバムを作ってきたし、完成盤のCDが届いて、聴いて、ああいいなって思ってきたんですけど。今回、まだ盤ができていないんですけど、めちゃめちゃ聴いているんですよ。大げさに聞こえるかもしれないですけど、毎日のように聴いていて。それぐらいめっちゃよくて。曲はもちろん、音も歌詞もメロディも、すべてがめちゃめちゃ好きで。こんなに自分たちのアルバムを好きになることって、なかなかないと思う。最高なんですよね。このご時世、曲順をどれくらいの人が気にしているかはわからないですけど、この曲順で聴くことにめちゃめちゃ価値があると僕は思っています」

12月3日には、クラブチッタ川崎でLINKの結成25周年記念ライブが開催されます。これは、アルバムのリリースに先駆けてなので、新旧いろんな楽曲が聴けそうですよね。

小森「そうなんですよ。アルバムのリリースパーティーではないので。この会場でアルバムの先行販売はするんですけど、あくまで25周年のライブなので、昔の曲から今の曲まで、集大成となるようなセットリストでやろうと思っています。

このライブにはアジカンもゲストアクトとして出演するじゃないですか。勝手な期待ですけど、LINKの対バンならではなアジカンが観られるのかな、っていう。

喜多「今のツアー(ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2023 『サーフ ブンガク カマクラ』)もそうですけど、サポートなしの4人で回っているので、LINKの対バンも4人で伺います。ならではのセットリストにはしたいですけどね。まだちょっと決めていないんで、迎え撃てるような作戦をこれから練ると思います」

後藤「まあ、小森くんに対抗して建さんが歌うんでしょうね、たくさん。俺たちもツインボーカルだぞ、っていう(笑)」

喜多「まだわかんないですけどね!(笑)」

後藤「あと、僕(ライブの)前日が誕生日なんで。僕の47周年でもあります」

喜多「小森くんも、ライブの2日後に誕生日みたいですよ。渋滞してますよ(笑)」

後藤「LINKのファンのみなさんも、アジカンのファンのみなさんも、シャンパンタワーをたてるつもりで来てもらえれば(笑)」

喜多「気持ちでね(笑)」

おめでたい(笑)。山上さん、意気込みがあれば教えてください。

山上 「ニューアルバムのリリースパーティーは別にあるので、このライブは集大成ということで、今のLINKをいちばん間近で感じてもらいたいですね。まあ、まず誰よりも自分が楽しみたいです」

では、最後にアルバムを楽しみにしている人に向けて、柳井さんからメッセージをお願いします。

柳井「めちゃめちゃ言いたいことを出せた音源ができあがったので聴いてもらいたいのもありますし。25年間やってきてできあがったものがこれだっていうのが、すごく感慨深いしうれしいです。パーフェクトなものができあがりました。この後もバンドは続いていくし、次はこういうことをやりたいっていうのも見えていますし、そこに向かってやっていくので。まずは、この音源を楽しみにしてもらって、25周年のライブも楽しんでもらって、今後の僕らの活動も期待してほしいです」

アルバムのリリースパーティーもあるんですよね?

小森「5月から、3本やります。僕ら25年間やっているので、ライブハウスから遠ざかっちゃった人たちもいると思うんです。家族とか仕事の都合で。でも、俺たちは変わらずやっているんで、今の活動がそういう人たちにも届けばいいなって思います。で、また、自分のタイミングが合うときに、ライブに遊びに来てもらえればいちばんうれしいです」

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