only in dreams

INTERVIEW

2022年 ベストアルバム

2022年、今年リリースされたアルバムを中心にアーティストや音楽関係者にベストアルバムを選んでいただきました。

(2023.1.10)

The Best Albums of 2022

小熊 俊哉
(ライター/編集者)

2022年最大のトピックといえば、後藤さん、つやちゃん、矢島由佳子さんとポッドキャスト「APPLE VINEGAR -Music+Talk-」(毎週水曜・Spotifyで配信)をローンチさせたこと。おかげさまで楽しく音楽談義させてもらってます。そしてまさか、〈only in dreams〉年間ベスト企画に参加させていただく日が来るとは! 毎年チェックしていたので光栄です。

自分がライター業を始めたのは、〈only in dreams〉の発足と同じ2010年。初インタビューは、後藤さんが2010年のベストに選んでいるローカル・ネイティヴスでした。それからずっと洋楽メインで仕事してきましたが、ポッドキャストを始めてから邦楽を聴く時間が増えたのもあり、上掲の10作も邦楽のみでセレクトしてみました(順不同)。

ただ選んでおいてなんですが、「邦楽」「洋楽」という区切り方については、近年ずっと悩ましく思っています。特にモヤモヤするのは、リナ・サワヤマ、ジョージ、ミツキといった人たちが「洋楽」とカテゴライズされていることについて。日本人アーティストによる海外進出は賞賛されるのに、日本にルーツをもちつつ海外に拠点を置き、グローバルな活躍を見せている彼ら彼女らの音楽は、なぜだか外様のように扱われてしまう。このアンフェアさはいかがなものかと。

自分が昨年もっとも愛聴したのは、リナ・サワヤマやThe 1975と同じく〈Dirty Hit〉に所属する、サヤ・グレーのデビューアルバム。カナダと日本にルーツをもつシンガーソングライターで、歌声とサウンドに滲んだ孤独感というか、なんとも名状しがたいフィーリングに惹きつけられました。そんな彼女にインタビューさせてもらったとき、「白人でも日本人でもない『はぐれ者』という感覚に、ずっと精神的苦痛を感じてきました」と語っていたのが印象深いです。自分は彼女のようなバックグラウンドをもつわけではないですが、彼女が語るような疎外感、社会から爪弾きにされたような感覚はそれなりに味わってきましたし、それこそが音楽を求める要因だったことを思い出しました。

そんな経緯もあって、ここでは海外拠点の方に加えて、日本国籍がなくてもルーツをもつアーティストであれば「邦楽」と解釈してみることに。USポートランド在住の松井夏帆によるアルバムは、ギターとエレクトロニクス、エモとエイフェックス・ツインを自己流で織り交ぜたような逸品。UKロンドン拠点のミソ・エクストラは、日本語と英語を軽やかに横断するラップが愛らしく、あっという間に人気者になりそう。横浜からロンドンに移り住み、想像力に満ちたサウンドスケープを描く大森日向子、バークリー音大でのジャズ教育を経てテクノに開眼、現在はブリュッセルで独自のエレクトロを手がける五十嵐祥子も素晴らしかったです。

国内に目を向けると、大石晴子は自分にとって中村佳穂『AINOU』以来の衝撃でしたし、Bialystocksの豊かな詩情は、キリンジ/KIRINJI好きの自分にとって完全ストライク。Laura day romanceの繊細で温かみのあるサウンドメイクに驚かされましたし、2作目での飛躍といえば、松丸契はジャズ・シーン以外からも広く注目されるべき。betcover!!はここ数年ずっと信頼していますが、またも常識を揺さぶるアルバムを届けてくれて嬉しいです。

※年間ベスト大好き人間なので、海外のベストアルバムも!

yeule『Glitch Princess』
Claire Rousay『everything perfect is already here』
Big Thief『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』
The Linda Lindas『Growing Up』
Harry Styles『Harry's House』
Carly Rae Jepsen『The Loneliest Time』
Tchotchke『Tchotchke』
They Hate Change『Finally, New』
Sobs『Air Guitar』
DOMi & JD BECK『NOT TiGHT』

小熊 俊哉
(ライター/編集者)
ライター/編集者 小熊 俊哉
WEB
BIO

ライター/編集者。洋楽誌CROSSBEAT、音楽サイトMikikiを経て、現在はフリーランスとしてRolling Stone Japanを中心に活動。若林恵(黒鳥社)との音楽配信番組「blkswn jukebox」、後藤正文(ASIAN KING-FU GENERATION)がホストを務めるポッドキャスト番組『APPLE VINEGAR -Music+TALK-』にレギュラー出演中。編書に『Jazz The New Chapter』など。

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