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INTERVIEW

2022年 ベストアルバム

2022年、今年リリースされたアルバムを中心にアーティストや音楽関係者にベストアルバムを選んでいただきました。

(2023.1.17)

The Best Albums of 2022

伊藤 英嗣
(音楽評論家‏‏/翻訳家)

'22年も素晴らしいアルバムがたくさんリリースされ、選択に悩んだ。思いきって、日本のアーティストはすべて外したけれど、それでもかなり苦労した(順不同)。

文中「アーティスト名もアルバム名も英字表記でふれたアーティスト‏/アルバム」以外の次点は、ぼくのプログレッシヴ・ロック魂を激しく刺激してくれたBlack Midi『Hellfire』、カヴァー・アルバムではあるけれどBruce Springsteen『Only The Strong Survive』、でした!

「Reset」 - Panda Bear & Sonic Boom

米英のインディー界を代表するふたりが組んだ。前者は'70年代後半、後者は'60年代なかば産まれという世代の違いを感じさせないどころか、驚くほどのマッチング。これぞオルタナティヴ・ビーチ・ボーイズ的音楽の極致ではないか。後者のかつての相棒による Spiritualized『Everything Was Beautiful』も愛聴したが、こちらのほうがグレイト。

「Time On Earth 」 - Pete Astor

'90年代初頭までのクリエイション・レコーズ‏/アラン・マッギーを支える存在だったザ・ロフト‏/ザ・ウェザー・プロフェッツの中心人物による、カヴァー・アルバムを除き3年ぶりのオリジナル・アルバム。ソロとしては最高作と言えるほどに、いい。昨年亡くなったかつての同僚に対する思いが込められた曲もある。

「Dear Scott」 - Michael Head & The Red Elastic Band

'80年代にはザ・ペイル・ファウンテンズ、それ以降はシャックを率いていた、リヴァプールのマイケル・ヘッド。フリッパーズ・ギターも、オアシスのノエル・ギャラガーも、先述バンドなどをとおして彼の曲作りの才能に参っていた。この名義としては、5年ぶりとなる傑作セカンド・アルバム。

「Wild Loneliness」 - Superchunk

'80年代後半にノース・カロライナ州で活動を開始、自ら主宰するマージ・レコーズとともに長年USインディー・シーンを支えてきたバンド。ティーンエイジ・ファンクラブのノーマンとレイモンド、R.E.M.の(マイケルではなく:笑)マイク、カメラ・オブスキュラのトレイシアンら、盟友のゲスト参加も効いている。

「Land Of Kali」 - Essential Logic

エックス・レイ・スペックスのサックス奏者だったローラ・ロジックが70年代末に結成、ラフ・トレイドからのファースト・アルバム('79年)、キル・ロック・スターズからのアンソロジー('03年)につづく、オリジナル・セカンド・アルバム。同世代の仲間であるキリング・ジョークのユースのプロデュースも見事だ。

「Ultraviolet Battle Hymns And True Confessions」 - The Dream Syndicate

'80年代前半、クリエイション・レコーズにもプリンスにも多大な影響を与えたカリフォルニア州ペイズリー・アンダーグラウンド・シーンを代表するバンドのひとつ。グリーン・オン・レッドの鍵盤奏者クリスをフィーチャーして、'10年代後半に傑作アルバム3枚をリリース。レーベル移籍第1弾となるこれも、素敵すぎる。

「Tableau」 - The Orielles

イングランド、ウェスト・ヨークシャーで結成された男女混成バンド。'18年のファースト・アルバム以来ずっと大好き。'20年のセカンド、'21年のサウンドトラック・アルバムをへた、現時点での集大成的サード。「ポストパンク寄りの音楽を志向する若手バンド」として、アイルランドのFontaines D.C.『Skinty Fia』、イングランドのWet Leg『Wet Leg』(これらの2枚、レーベルは異なるがプロデューサーは同じ)を含めた3枚でどれにしようか悩んだけれど、結局これ(レーベルはヘヴンリー)を選びました。

「workspace 」 - wor_kspace

かつてティーンエイジ・ファンクラブの正式メンバーだったフィンレイ・マクドナルド、'10年代にスタジオ経営も始めた彼によるワン・パーソン・プロジェクト。いわゆるエレクトロニカ的な肌触りを持ちつつ、極めて人間的かつ科学的。ラスト曲〝Starship〟は、ぼくの’22年度最愛聴曲のひとつ。

「And In The Darkness, Hearts Aglow」 - Weyes Blood

カリフォルニア州サンタ・モニカ出身、’00年代初頭にデビューしたシンガー・ソングライターの通算5作め、サブ・ポップからの2作めとなるアルバム。声質がエイミー・マンに似ている気がして以前から好きだったけれど、これで完全にはまった。気分が落ちこんだときに、よく聴いた。'23年1月リリース予定のジョン・ケイルのソロ・アルバム(楽しみ!)には、彼女と共作した長尺曲も入っていて、すでにインターネットでは聴けるようになっている。

「A Bit Of Previous」 - Belle And Sebastian

そして、'90年代以降のスコットランド、グラスゴーを代表するバンドのひとつが、ロックダウン期に、録音もできる自らのスタジオを作り、そこで制作された最初のアルバム。曲名を見たとき、あまりぼくの好きじゃないタイプの作品かな?と思ったけれど、いや、全然そんなことなく(笑)むちゃくちゃいい! そんな環境が整ったということもあるのか、彼らは'23年1月に早くも次のオリジナル・アルバムをリリース。さまざまな意味で、新しい時代の幕開けを感じさせる。

伊藤 英嗣
(音楽評論家‏‏/翻訳家)
音楽評論家‏‏/翻訳家 伊藤 英嗣
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BIO

音楽評論家、翻訳家、クッキーシーン編集長。'23年こそ、クッキーシーンのウェブサイトを再起動する予定です。

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