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NAHAVAND『Vandalism』オフィシャルインタビュー
(2019.05.10)

2012年の夏に怒りに満ちあふれた「Style Band Nahavand」がYou-Tubeにアップされてから、早7年。不遜な態度は一貫しつつも、NAHAVANDはその間に幾度も解体しかけ、実際にシーンから姿を消したこともあった。ヒップホップとロックの間に今も厳然と存在する透明で巨大な壁の上、おそらく数センチしかないその“間”でバランスを取り続けることは、容易ではなかったのだろう。だが、彼らはカムバックを果たした。約5年ぶりのアルバムとなった本作『Vandalism』には、2人の嘘偽りない現時点が詰め込まれている……だけではない。2人は、それをリスナーに余すところなく伝えるための音楽的な強さを手にいれた。

(インタビュー:長畑宏明)

Miyauchi「今回のインタビューを長畑さんにお願いした経緯から話した方がいいと思うんですけど。出会いのきっかけは、昔に長畑さんがやっていたブログに俺が「バンドやってるんで聴いてください」ってコメントしたんですよね」

そうですね。僕は学生時代、ストリートスナップと音楽レビューが一緒に掲載されている「hotodancewithyou」というブログをやっていたんですが、Miyauchiくんは初期から熱心な読者でいてくれて。たしか、その時はバンドを組んで、音楽もロックだったような。

Miyauchi「まだ高校生でしたね。自分の音楽の入り口はDIR EN GREYで、最初はSadsのコピーバンドをやっていたんですよ。だから、ずっとそういう音楽をやっていくものだと思ってて。で、途中で彼からプレスリーやビートルズやサイモン&ガーファンクルなんかを教えてもらって、こういうチープな音も格好良いなって気づいて。プレスリーの「Johnny B. Goode」のカバーを聴いた時、それまで好きだったファズのきいたギターじゃなく、クリーンなギターが新鮮に感じて。それからストロークスとか聴きだして、ストロークスのファッションについての検索ワードから長畑さんのブログにたどり着いたんです」

Tokisato「自分、めっちゃビジュアル系やったもんな」

Miyauchi「その頃のステージネーム言いましょうか?鴉ですからね(笑)」

その話は僕も今初めて聞いた気がする。では、当時の音楽的なアイコンといえば誰になります?

Miyauchi「共感できるのは、アークティックモンキーズのアレックス・ターナーなんですよ。彼はストロークスとストリーツの影響下で音楽を作り始めたじゃないですか。俺もブランキーが大好きでSEEDAさんを聴いてラップを始めたから、その感覚がよくわかる。特にアークティックだと5枚目のアルバム『AM』(2013)あのバランスは理想かもしれないっす。2人とも昔から変わらず好きなのはリバティーンズかな?」

Tokisato「うん、リバティーンズは最強。見た目から音から全て好きっていうレベルで」

「Soul Dwells In Style」とか「Why Always You Are」とか、初期の曲にはそのインディーロック好きな感じが今よりわかりやすく出ていた。でも、今作にはよりストロングな音が鳴っていますよね。今作を作る上で最初に打ち立てた目標は何でした?

Miyauchi「まずサウンドに関してはメインストリームで戦える音にすること。あいみょんとか米津玄師と並んでも違和感がないような商業的な音。だから今回は自主ではなく、(本作のプロデュースを手がけた)Gotchさんやmabanuaさんに参加してもらって、プロフェッショナルなチームを組んだんですね。あくまで俺らが個人的に好きなサウンドはストロークスやリバティーンズと同じ感覚で聴ける、日本のバンドで挙げるならVeni Vidi Viciousみたいな音圧のないサウンドなんですけど。ハイファイとローファイならローファイ。ただ今回は資金面でハイファイの選択肢があったのでハイファイを選びました。」

それを意識するようになったきっかけを教えてもらえますか?

Miyauchi「ポスト・マローンの『Beerbongs & Bentleys』(2018)って、ダウナーなトラックが多かったファーストと比べるとサウンド自体が明るいじゃないですか?トラックもポップになってたし。アルバム制作真っ只中で発表されたんですが、まさに自分がやろうとしている事に近い作品だった。だからミックスエンジニアの古賀さんにも『広いレンジを持った、聴きやすいアルバムにしてほしい』と。俺の歌詞は日記みたいなもんなんで、誰もが共感はできないと思う。だからこそ、サウンドはクリアで聴きやすいものにしたかったんです。」

mabanuaさんって、米津玄師とかSKY-HIの作品もプロデュースしている方ですよね。彼が手がけた作品の中で今作の参考になるようなものがあったんですか?

Miyauchi「俺が好きなのはSALUさんの『Good Morning』(2016年)。それまでSALUさんの曲は見た目に反してアンダーグラウンドなイメージを持っていたんですが、そのアルバムはJ-POPコーナーに並んでもおかしくないようなサウンドだったんですね。ラップスキルは高いままでリスナーに寄り添っていた。その中でもお気に入りの曲のプロデュースがmabanuaさんだったんです。だから、Gotchさんに『誰にプロデュースしてほしい?』って訊かれた時に、何人か挙げた中にmabanuaさんの名前も入れて。俺はGotchバンドでmabanuaさんがドラムやってるって知ってたから、『彼だったら紹介できるよ』って言ってくれるんじゃないかって(笑)そしたら、Gotchさんが「大阪でGotchバンドのライブあるから遊びにこいよ。その時紹介するよ」って誘ってくれて」

Tokisato「mabanuaさんには音に関してもめちゃめちゃ勉強にさせてもらって。俺はレコーディングに入る前はけっこうフワフワしていて、どうなるんだろうなっていう感じだったんですが、今回mabanuaさんのアドバイスをもらいながらトラックを詰めていく作業をやって、こういう風にやれば理想に近いところにいけるなって。トラックメイクについての方法論を学べたし、自信もつきました。」

なるほど。その影響があったかはわからないけれど、今回はロックとラップの融合というよりも、単にトラックがギターなだけでれっきとしたラップアルバムになっている。これは意識的なもの?

Miyauchi「それは曲を作っているうちにラップがどんどん上手くなってしまったっていう」

Tokisato「(小馬鹿にしたような感じで)へー」

Miyauchi「ラップとロックを混ぜるとかも考えてなくて、ジャンルの壁をなくしたいっていう明確な目標ができたんです。ただ俺らから自然にでてきた曲。」

Tokisato「去年、フジロックでポスト・マローンのライブを観たんですけど、ロックではなかったです。でも、やっぱり俺はギタリストだから、ロックの厚みが欲しくなってしまう。だから、今回のアルバムはそれを両方追い求めた結果でもあると思います。」

Miyauchi「アジカンの『ホームタウン』(2018)も、トラック主体の曲で鳴っているサブベース(約60Hz〜約20Hzの低い周波数で鳴っている音)の感覚を、バンドで表現しようとしている。NAHAVANDも4人メンバーがいれば同じことをやっていると思うんですよ。メンバーがボーカルとギターだけだから、リズム隊が打ち込みになっているだけ。だから俺らはロックバンドを自称してるんです。」

ちなみに、アルバムの中でギターはループ処理ですか?

Tokisato「Gotchさんの録りで基本は最初から最後まで弾いてます」

今してもらったのは、ギターロックっていう自分たちのルーツと、ヒップホップっていう今の気分をリンクさせる時に、どういうやり方があるかっていう話ですね。

Tokisato「あとMiyauchiが音痴やしな」

Miyauchi「「Made」のフックを歌ってブースから出たら、Gotchさんに『ピッチが壊滅的だね。』って真顔で言われて……(笑)でもカラオケは上手いんですよ。」

Tokisato「カラオケはほんまに上手いよな(笑)。プリプロの時から下手やったんですよ。だから自分の曲を歌うのが苦手なんやろな。」

Miyauchi「でもあの話して、ノイズの」

Tokisato「アルバムのレコーディング中、ある曲で人間には聴こえないような周波数のノイズが入っていて、エンジニアの人すら気づいていなかったんですけど、彼だけ聴こえてたっていう。『え、入ってないよ』『いや、絶対入ってますよ。上から全部チェックしてみてくださいよ』『ほんとだ』って」

Miyauchi「だから耳は良いんですよ」

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『Taxi Driver』Music Video / Gotch