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岩崎愛『TSUBOMI』オフィシャル・インタビュー
(2018.06.13)

 岩崎愛のニューアルバム『TSUBOMI』が5月16日にリリースされた。2016年発表の『It’s Me』から2年越しの本作品は、イギリス・ロンドンでレコーディングを行った。プロデューサー、レコーディング・エンジニアはベッカ・スティーヴンズやエイミー・ワインハウスらを手がけたトロイ・ミラーが担当。現地のミュージシャンたちをバックバンドに据え、出来上がった意欲作は、まごうことなき傑作である。

 アルバム毎に大きな変化を遂げてきた岩崎愛。本作においては、海外での録音ということもあり、特にデモ作りなど事前の準備を入念にした上でレコーディングに臨んだという。しかし、結果的に出来上がったアルバムはその枠組みに縛られていくのではなく、むしろそれを自由自在に伸びやかに超えていくような、ソリッドでありながら開放感のある作品に仕上がっている。

 制作の過程を通して「音楽の自由さ、楽しさを知った」という彼女。そんなワクワク感を携えて制作された本作は日本のシンガーソングライターが生み出した作品という枠組みを超えて、世界のポップ・ミュージックのシーンともリンクするサウンドを結実させている。

 五月に花開くいじらしい蕾(つぼみ)のように、未来への期待に満ちたニューアルバム『TSUBOMI』。解き放たれ、自由を知った岩崎愛のこれからの行き先は誰にも、彼女自身にもわからない。しかし、ここには確かに奇跡のように美しく掛け替えのない音が鳴っている。『TSUBOMI』が、花開くのはきっとこれから。輝かしい未来に向かって、進め、岩崎愛。

(インタビュー:小田部仁)

やっと音楽家っぽくなりました

『TSUBOMI』、傑作ですね。何がすごいって思ったかっていうと、シンガーソングライターのアルバムとして、世界に通用するレベルの「今感」を感じられるアルバムってここ数年、日本で出てきてなかったんじゃなかな、と。そういう意味で、傑作だなって。

岩崎今感って言われるのは、嬉しいです(笑)。どういう音楽が流行っていようと、自分が良いって思わないと感化されなかったんですよね……。でも、自然とそうじゃない音楽も聴くようになって。「あ、これが流行ってるんや」って。「この音はかっこええな」とか思えるように。

前作のリリース・タイミングでインタビューさせてもらったときは「あんまり音楽がわからへん」とかって仰ってましたよね。「最近、パソコンでデモ作れるようになったんですよ!」って興奮してらしたの覚えてます(笑)。

岩崎そうでしたね……(笑)。

なんで、今の音楽を聴いてみようというモードになったんですか?

岩崎自分でも理由はよくわからないんです。前回も話ましたけど、ミュージシャンやったら、もっと早くそういう風にならなければいけないんですよね(笑)。でも、私には今のタイミングだったんです。

今作、ロンドンでレコーディングしてるじゃないですか? やっぱりそれは今感を求めてってことなんですか?

岩崎「この曲入れようかな」とかアルバムの構成が見えてきたので、「どういう人にプロデュースしてもらう?」って事務所の社長と相談してたんです。そしたら、社長が「こういう人がいるんだけど」って……正直、それ聞いたときはロンドンでレコーディングって規格外なぶっ飛んだことをやらせてもらって大丈夫ですか!?って思ったんですけど。「大賛成です!」「やらせてください!」って即答して。

なるほど。で、ベッカ・スティーヴンスやエイミー・ワインハウスのようなジャズやR&B寄りの、でもブラック・ミュージックど真ん中という訳ではない音楽ジャンルをクロスオーヴァーする新世代のAORディーヴァのプロデュースを手がけているトロイ・ミラーのプロデュースを受けることになった、と。制作はどんな風に進んだんですか?

岩崎デモのアレンジを決め込んで最後の段階まで作り込んでいったんです。

岩崎さんの楽曲制作のアプローチとしては珍しいですよね。前作の時は、ほとんどコーラスと弾き語りだけのデモだったって仰っていて。ほとんどヘッドアレンジで最終的なアレンジは組んでいくと伺っていたので。

岩崎そうなんです。ただ最近になってパソコンでデモを作って、曲をアレンジするようになって。書く曲も変わってきたんですよね。リズム・マシンとか打ち込み系もガンガン使うようになって。だから、作ったデモを元にもっと曲が大きくなればいいって気持ちがあって……やっと音楽家っぽくなりました(笑)。

失礼ですが、かつて大阪の神童と言われ、野生児のように音楽と遊んでいた時代があり、やっと岩崎愛は音楽家になったと(笑)。

岩崎10年越しですね(笑)。

今作、音数の少なさに驚く人が結構いると思うんです。曲の骨格がむき出しになっているような。でも、過不足なく岩崎さんの意図する曲のアトモスフィアは表現されていて、それがまた素晴らしい録音でしっかりと記録されている。

岩崎それは、嬉しいですね(笑)。面白かったのが、私が作ったデモはコーラスとギターと歌は普通に家で録音して、それ以外の音、ベースやドラムも打ち込みなんです。そのほかにも「シュッ! シュッ!」みたいな効果音がいっぱい入ってたんですけど。それを「1からサンプリングし直して、理想の「シュッ」の音をみんなで探そう!」みたいな流れになって(笑)。

昆虫採集みたいですね(笑)。

岩崎スタジジオにあるものを触ったり、鳴らしたり。面白かったですね(笑)。「シュッ!」って音がなかなか見つからなかったんですけど。通訳の人が着ているTシャツのプリントがザラザラしているのを発見して、そこをサッと触ったら「シュッ!」って音がなったんです。すぐにブースに入ってもらって、みんなでこすりまくりました(笑)。

現地のスタッフとは英語で会話するわけじゃないですか。通訳を介していても、創作物を作る上では結構、大変な作業だと思うんですよ。そこで思うようにいかないとか、苦労したりはしなかったんですか?

岩崎私も一番心配してたんですけど。デモをきちんと作っていったことが幸いして。最初に「どういう風にしたい?」って聞かれた時に「私のできることは全力でデモに詰め込んだから、この世界観を広げてほしい」って伝えたら「わかった」って。
言葉もいらない状態で、目指しているところを共有できたんです。

そのデモが言葉を超えて、とても雄弁だったんですね。

岩崎面白かったですね。レコーディングしてて「今のちょっと違うかな」って思うことがあるんですけど、テイクの取捨選択や、この方向性でやってほしいっていう意見が、まったく一緒だったんです。だから「あ、もう見えてるわ、大丈夫や」って思って、すごく安心してできました。

そういう安心感を作るところができるのも、プロデューサーとしての手腕なんですかね。サポート・メンバーもみんな現地の方じゃないですか? 

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岩崎いろいろアイディアとかを出してくれて。オリ(Oli Rockberger)がピアノやキーボードを弾いてくれたんですけど、彼は自分でも歌うので「こんなコーラスの案があるんだけど、どう?」と提案してくれて。そのコーラスのラインがよくわからへんかったから「トロイ、ちょっとオリのヴォイスをアップしてくれる?」って日本語で言ったら「OK」ってすぐに音量をあげてくれて(笑)。意外とカタカナ英語でも伝わるもんですね。「君はどこでもやっていけるな」って笑われました(笑)。

岩崎さんらしいエピソードですね(笑)。トロイさんのプロデューサーとしての一番優れたところってどこだと思いますか?

岩崎とらわれていないところですね。例えば、自分が作ったデモのドラムはパターン的にはめちゃくちゃなんです。「こんなドラム、絶対叩かれへん」みたいな。「手が何本あっても無理や」っていう(笑)。でも、そのドラムを自分流にせずに、まずはそのままやってみる。「そんな無理して叩かんでもええよ」って言ったんですけど「このリズムは普通のドラマーは考えないリズムだから、絶対にこっちの方がいい」って、自分の意見を通すことをしない。そういう一から作る自由さに「オォッ!」ってなりましたね。

自分がやってきたことや、自分が持ち合わせているものに当てはめたりしない。

岩崎そうなんです。割れてる音があったとしても、その音が正解やったらOKなんやなって。自分が作ったデモのコーラスを「これ、よく録れてるからそのまま使おうよ」って言って。でも「それはちょっと……」って…蝉の声とか入ってるし……。

蝉! あくまでガイド的に録ったのに、本チャンに使われそうになったんですね。

岩崎「あぁ、このノイズか。わざと入れてると思ったよ、ハハ!」って(笑)。「この蝉の声も相まって、このテイクがいいんだよなぁ」って。「でも、それは家で録ったやつだから!」って最後の抵抗をしたんですけど、「何言ってんだよ、愛。ここだって、俺の家だよ」って言われて、「確かに……」って納得せざるをえず(笑)。

おされたんですね(笑)。レコーディングは、トロイさんのご自宅兼プライベート・スタジオで行われたんですよね。

岩崎1日に何杯もお茶を飲みながら録音して(笑)。すごいリラックスしてできました。暇な時間はサッカーをして過ごしてました。音楽以外の時は意思疎通できなくて困りましたけど(笑)。でもトロイと一緒にできたことで、アイディアさえあればそれでOKなんだなってことがわかりました。結局、求めている音が一番正解なんだって。

ジェイムズ・ブレイクもiPhoneのヴォイス・メモで普通にレコーディングしてるらしくて。別にそれでもよけりゃいいっていう……。岩崎さんは、今作を作る過程を通して、すごく自由になっていったんですね。

岩崎「自由でいいんや!」ってこだわりがほどけていって。改めて「音楽、楽しいな」って思うようになりました。音楽、はじめたばっかりみたいな気持ちです。実際、はじまったばっかりだなって思ってます。

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『Taxi Driver』Music Video / Gotch