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8otto アルバム『Dawn On』オフィシャルインタビュー
(2017.10.18)

8ottoが6年ぶりに本格再始動した。
先行シングル“Ganges-Fox”に続くニュー・アルバム『Dawn On』は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文のプロデュース。6年たっても彼らが依然としてロックの最前衛であることを骨の髄まで知らしめる傑作である。
性急で生々しくて、氷のように冷めた知性とナイフのような鋭い感性、しなやかで荒々しい野生がせめぎあっていた初期8otto。グルーヴィでダンサブルなビート、余計なものが一切なく、シンプルでスカスカだが、足りないものもまた一切ない。そこに音があるべき場所で鳴り、余白にさえも饒舌で重層的なニュアンスが詰まっている。そんな彼らの音楽性は、6年の間に得た生活者としての地に足の着いた力強さと確信の深さ、言葉の強さによって、さらに研ぎ澄まされている。退路を断って自身を更新していく強い意志は、いつだって美しい。

(インタビュアー:小野島大)

6年のブランクがあったからこそ、手にすることが出来たクリエイティヴィティ

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6年ぶりのニュー・アルバムです。もともとそれほど多作な方ではないと思いますが、それにしても間があきましたね。

マエノソノ「……いろんなことがありましたねえ」

TORA「出したいなとは思ってたんですけど、なかなかメンバーのスケジュールが……それぞれの生活を優先して音楽をやっていこうというスタンスに変えたんです。なので仕事や家族を優先して作っていくと、これぐらいかかっちゃったというのが実際のところなんです」

バンドよりもまず、それぞれの生活を大事にしようと。

TORA「そうですね。2010年に1年間活動休止したんですけど、その時にバンドのやって行き方をどうしようかと話し合ったんです。がっつり音楽だけをやって頑張っていくのか、それぞれ別に仕事をしながら音楽をやっていくか。そこで、音楽と生活は切り離してやっていけたらいいな、というスタンスになったんです」

そう思うようになったきっかけは。

TORA「僕は……2004年にバンドを結成して、休止するまでの5~6年をものすごく駆け抜けたと思うんです。インプットする時間もないぐらいライヴをやりまくって、作品も一杯出して。一回落ち着きたかったんですね。インプットする間待ってもらいながら、音楽だけで食べていけるほど甘い世界でもないと思うので、インプットする期間をとるなら、一旦生活を落ち着かせるほうがいいじゃないか、という話になったんです」

マエノソノ「休止前は年間100本以上ライヴをやってたんです。その合間にレコーディングして……というのを3~4年ぐらい続けてた。僕はその間に家庭を持って子供もいてて。それでずっとやっていくのが結構いっぱいいっぱいになってて。食ってくためにはどうすればいいか、考え過ぎちゃって。お金を稼ごうと思うとライヴをしなきゃいけない。そのために、ほんまはしたくないけど、このライヴやっとこか、みたいになり始めてたんです。ライヴを純粋に楽しめるような環境じゃなくなってたんですね。自分らがかっこいいと思うことを、楽しんでできるような環境にしたい、ってことになって。それで一旦休むことにしたんです」

なるほど。

マエノソノ「毎年正月に集まって、今年こそ出そうかみたいな話をして、6年目になった感じです(笑)」

1年間お休みして、前作を出して、また6年間たって。生活を立て直すためにそれぐらいの期間が必要だった。

マエノソノ「立て直した結果、それぐらいのスケジュールしかとれなくなったというか。皆それぞれ仕事があり生活があるから。以前だったら週に2,3回集まって練習してたのが、月に一回集まるのも難しくなるとか。そういう状況の中で曲を作って……とやっていくと、気がつくと6年ぐらいたってた、みたいな(笑)」

そういう状況だと、気持ちを強く持ってないと、いつのまにか自然消滅、みたいなことにもなりかねないですね。そういう危機感はありませんでしたか。

TORA「僕はその間、メンバー4人の中で、一番音楽の現場に近いところにいたんで、早くバンドをやりたいなと焦る気持ちはあったんですけど、それぞれのメンバーの生活や状況を尊重してやりたいという気持ちになって。動けないスケジュールも全部楽しんで、逆にうまく使ってバンド活動できひんかなという気持ちに切り替わってからは、そういう危機感もなくできるようになったと思ってます」

日々暮らしている中で、音楽のこと、音楽を作ることはどれぐらいの割合を占めてるものなんですか。

マエノソノ「僕はね、3年半ぐらい前から普通の仕事を始めたんです。バイク乗って営業で回る仕事なんですけど。そうしたら音楽しかやってない時よりも、アイディアがどんどん降ってくるようになったんです」

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ああ! そうですか。

マエノソノ「昔読んだ『思考の整理学』(外山滋比古著)って本に書いてあったんですけど、『アイディアは厠の上と枕の上と馬の上で浮かぶ』とあって(中国の詩人・欧陽修の言葉)、『馬』って、自分の場合はめっちゃバイクやなと気づいて(笑)。音楽ばっか24時間やってた時は、頭の中で情報が溢れてパンクして、何がカッコいいかカッコ悪いかもわからなくなって、一回離れたんです。でも一旦離れて普通に生活してると、その方がリフやメロディが浮かぶ」

バイクに乗ってるとパッと浮かぶ。

マエノソノ「そうそうそう(笑)。僕の家から10分くらいバイクで行った、ある交差点を左折して5分間ぐらいの間に浮かぶ率がすっごい高いことに気づいて(笑)」

TORA「わはははは! ヤバいなそれ」

マエノソノ「その交差点に差し掛かるちょっとぐらい前に鼻歌がちょっと形になって、左折して一つ目の信号で止まって、そこで携帯のレコーダーに録音することを5回ぐらいやった時に。そういうことか!と気づいて(笑)。今作のだいたいの曲はそこでメロディが浮かんでます(笑)」

24時間音楽のことを考えている時よりも、そういう日常の中でふっと浮かんでくるようになった。

マエノソノ「はい。それで、営業の仕事なんで、第一印象で思いを伝えなきゃいけないとか、そういうのがあるじゃないですか。そういうのが全部、ステージで身になってるというか。今までライヴっていったら、(客が)皆『8otto!』って言うてくれるやないですか。アガったところでスタートというか。言うたら最初からチヤホヤしてもらいやすいポジションで始めてる。でも営業の仕事はマイナスからスタートなんです。『お前誰やねん』ってとこから始まるから。『お前誰やねん』ってとこから『兄ちゃんええやつやな』って思ってもらうためにはどうしたらいいか、常に考えて仕事してるんですよ。だからライヴでちょっとアウェーでみんな引いてるような状態なんて全然余裕やん、って思えるようになれたんですよ、気持ちが」

ああ、その話はめちゃくちゃ面白いですねえ(笑)。

マエノソノ「なので僕は24時間音楽やってた時よりは、今のほうがよりクリエイティヴやし、ヴォーカルも良くなったし、ライヴも良くなったし」

人間として成長したってことですね。

TORA「だと思います」

マエノソノ「そうですね」

自分をわかってもらう、自分を伝えるということに対して謙虚になったし、伝え方を考えるようになった。

マエノソノ「そうそう。なので6年間何もしなかった風に表向きは見えるけど、めっちゃ成長しました(笑)。得るものがすごくありました」

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じゃあ、バンドのメンバーが集まるのは月に1回ぐらいですか。

TORA「今もそれぐらいあればいい方ですね」

その中で「アルバムを作ろうぜ」という機運はどうやって高まっていったんですか。

TORA「皆ずっと思ってはいたと思うんです。「こんなペースやけど続けるの?」って。でもこんな状況でも皆バンド好きやし、やりたいって。じゃあできる範囲でやろう、ってとこから始まってるんで。全員揃わなかったら、その時はその時でできる作業をするし」

タイミングによっては、生活の方が大事だというメンバーがいても不思議じゃない。

TORA「そうですそうです」

でも全員音楽への熱意、モチベーションは持ち続けていた。

マエノソノ「みんな好きなんでしょうね、バンドが」

TORA「その熱量の割合を合わせていく作業はけっこう時間がかかりましたね。今まで全員、生活の中に音楽の占める割合が8だったとしたら、その期間はみんな5ぐらいになっている。その中で僕1人だけが7やったりすると、ちょっとイライラもするじゃないですか。もっとライヴやろうよ、アルバム出そうよって。でもみんな生活があるから、なかなかうまく合致しない。そこをちょっとずつ合わせていく作業に時間がかかったのかなと。なのでもしかしたら僕の問題やったかもしれないですけど(笑)」

マエノソノ「それはお互いにあったと思うよ」

TORA「僕もみんなの都合を考えるし、ほかのメンバーも音楽やりたいから、睡眠時間削って頑張るよ、って、お互い少しずつ歩み寄っていった感じですかね」