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Turntable Films オフィシャルインタビュー(前編)

じゃあ、すごく大雑把な質問ですが、アルバム全体として、どういう音楽を作りたかったのか? この質問に対する答えやヒントらしきものがあったら教えてください。

井上「僕が岩城一彦さんとやっているPeg & Awlはアメリカの古い音楽をやっているデュオだから、アメリカの音楽史に興味があって。中村とうようさんの『大衆音楽の真実』とか、ジャズの歴史の本とか、いろんなものを読んでいたんです。で、歴史を遡っていくと、「これは白人、これは黒人とかじゃなくて、いろんな音楽って元々もっと混血しているんだな」ってことが改めてわかって。それは大航海時代からの負の遺産とも言えますけど、だからこそ文化が混じって面白いものになった。そんなことを改めて知ったときに、紋切り型でフォークだとか、ロックだとか、新しいヒップホップの何とかだとか、そんなのじゃなくて、もっと混血したものをやりたいなと思ったんです。もっと自由に音楽のことを捉えたくて。何かしらの動きがあって、そこから遡るのも面白いし、戻ってくるのも面白いし。その自由さは調べれば調べるほど面白かった。だから、僕の中で切り分けられるけど切り分けられない、混じった音楽をやりたいなと。」

歴史の一部であること、あるいは、その中で、日本という場所で育った自分自身のアイデンティティがどんな風に形成されてきたのか、それが意識出来るような音楽が作りたかった。

井上「うんうん、そうです。でも、わかりやすく日本ってこういうものですっていうんじゃなくて。渋谷の街を見てもわかりますけど、じゃあ日本文化って何なの?って思うじゃないですか。USJみたいにわかりやすい場所を作らなかったら、これが日本文化ってわからないくらいに混じり合っている。ガラパゴスの中で成り立っている音楽もあるけど、それは型が決まり過ぎていて、逆に不自由に見えることもあったり。もちろんそれが悪いとは思っていないですけど、日本人がやる音楽はそれだけじゃないはずだと思っているので。ある意味、根源的なところに戻る感じかな。それをアイデンティティと呼ぶのかわからないですけど。」

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日本の場合、何よりも第二次大戦での敗戦を機会にして複雑な状況に置かれることになったので、そう簡単にわかりやすいアイデンティティとして提示出来ないですよね。実際、戦後生まれの我々というのは、アメリカに政治的にも経済的にも文化的にも占領されている状態で、むしろ食文化から何から日本の文化にアクセス出来なくて。気が付いたらアメリカの文化が大好きになっていたわけじゃないですか。

井上「そうそう、そうなんですよ。」

で、あ、ここに俺のアイデンティティがあるんや、と思ったときには、いや、それって、アメリカの国家戦略の一部ですよっていうことに気付かされて。「じゃあ、どうしたらいいの?」みたいなことを考え出すんですよ。

井上「いや、そうなんですよ。でも、青春時代に好きだったものから逃れるのが難しいように、キラキラ輝いてはいるんですよね。そのクソみたいな戦略とかも含め、混じってしまっているから。」

「でも逆に、アメリカナイズされているっていうのも含めて、自分らの生き方じゃないとそこに辿り着けないっていう。ほんまのアメリカ人やったり、北米、イギリスの人らは、自分らと同じ感性で同じ影響を受けてないから。だから、結果的にそうなってしまうしかないのかなとは思いますけど。」

井上「ただ、90年代からそうだと思うんですけど、どんどんアーカイヴされていく時代になったじゃないですか。で、アーカイヴ化されたら、特定の文化にアイデンティファイするっていうより、各自の歴史の紡ぎ方が出来るようになる。その、それぞれ違う紡ぎ方の中から一人ひとりのアイデンティティが生まれるんちゃうかな、って思って。昔はもっとわかりやすいルート――オルタナやったらこういうルートでした、みたいなのがあったと思うんですね。でも、今はもっと自由でよくなったから。」

じゃあ、大雑把な質問をしたいんですけど、このアルバムははっきり日本のアルバムだと言えますか?

「僕はそう思います。めちゃくちゃ日本のアルバムだと思います。」

井上「ああー、日本のアルバムって言えますけど。僕のコレクションがコリア、日本、オーストラリアとかでわけてたら、日本にするけどな(笑)。」

「どれだけ日本の人が海外っぽいのをやろうとしても結局は違うと思うんですよ。あとからアーカイヴして並べて聴いたときに、「こんな日本人もいたんやな」みたいに見られるかもしれないですけど。逆に、リアルタイムで聴いている人は、普通に日本のものやと思って聴く人が多いと思う。それで、じゃあ、なんでそういうのが出来たのか?って言ったら、日本にいて、日本に生活していたからで。そもそもバンドが出来た経緯もそうだし、こういう形で海外の音楽にいろいろアクセス出来たのも日本やからやし。今でも僕は、「敢えて日本の音楽はあんまり聴かないです」とか言っていますけど、そういう価値観が出来たのも日本やからやし。どこからどう切っても日本のアルバムちゃうかな、と僕は思うんですけど。」

井上「ええぞ、もっと言え(笑)。」

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『Taxi Driver』Music Video / Gotch