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(2020.12.24)

2020年ベストアルバム

2020年、今年リリースされたアルバムを中心にアーティストや音楽関係者にベストアルバムを選んでいただきました。

「CATCH」 - Peter CottonTale

今年いちばん聴いたアルバムだと思う。作品全体に通底するゴスペルのフィーリング、これは多分、アメリカ的な信仰によるもので、俺にはそれがない。強いて言うなら、お経から感じる何らかの有り難みみたいなものかもしれないんだけど、彼らにとってはそれがこうしたクワイアのハーモニーで、もっと身近で強いものなのかもしれない。そういう祈りのようなフィーリングに生を許されたような気分になって、音楽的にも大変に影響を受けた。

「Woman In Music Pt. III」 - HAIM

こんなに格好いいロックバンドになるなんて想像もしていなかった。ラップ・ミュージック全盛の21世紀に「ロックもやっぱり最高だな」と思わせてくれた、素晴らしいアルバム。「ガールズバンド」だとか、「フィメールラッパー」みたいな言葉は、彼女たち(CHAIやZoomgalsも!)のようなアーティストの活躍で、今後は海の藻屑のように消えていくんだと思う。痛快、そして爽快。ヴィンテージ機材による歪み(やり過ぎ感もよし)も最高。

「Grae」 - Moses Sumney

20曲はちょっと冗長だなと思うけれども、まとめて聴いたらやっぱりすごい。ともすると、好事家以外はこうしたサウンドデザインに耳が疲れてしまうんだろうけど、耳に近い音にも丸みがあって温かく、曲が良いので飽きない。ゆえに、いろいろな音を追いかけて、「ああ、これはとても面白い音像なんだ」と、ずっと楽しむことができる。変だけど、拒まれない。奇抜さとチャームのバランスが絶妙なアルバムだと思う。

「Golden Ticket」 - Brasstracks

ちょっとホーンの音が耳に痛いことを除けば(キックも割れてるけれど、最近の流行音楽はほとんど割れてる)、最高のアルバム。ボーカルの録音もギターなんかの生楽器の音も良いように感じる。Samm Henshawとの曲は本当に自分のツボを押しまくって、緊張した精神のコリがほぐれる。オーセンティックな雰囲気の曲を今風の音使いとミキシングで仕上げてるという意味で、アルバムのミックスのリファレンスにしまくった一枚。

「En Garde」 - Ethan Gruska

Phoebe Bridgersのプロデューサーのアルバム。普段着の感覚でいうならば、いちばん好きなアルバムかもしれない。フォーキー+αな質感、メロディ、現代的な低音、ミックス、どこを切ってもちょうど自分の好みにハマっている作品。ソウルやHIP HOPからの流れや、アメリカとは別のエスニックなビートや和声を意識した音楽が生先端なのだろうけれど、別のエッジとも呼ぶべきアメリカのインディの音が自分好みで、リラックスして聴けた。

「Mutable Set」 - Blake Mills

ボブ・ディランの新譜も含めて、面白い/ヤバい音像の裏にBlake Millsありという感じで、今のアメリカではこの人がいちばんエッジーで突き抜けていると思う。ビート・ミュージック全盛の時代に、こうして新しいサウンドデザインというか、配置というか、空間認識と再現というか、そういうイメージを「SONG≒曲」の中で打ち立てることに凄みを感じる。派手じゃないところが特に。録音とミックスできることっていっぱいあるなと。

「Who Want to Be a Millionaire?」 - Chinatown Slalom

ビースティボーイズとかに惹かれた若い頃って、こういうジャンクな感じが好きだったなと思い出した。でも、衝動みたいな勢いに、ちゃんとテクノロジーと技術がついてきているところが「現代のポップミュージック」って感じで、そこもいい。最後までバケツをひっくり返すのではなくて、人懐っこかったり、美しかったり、いろんな表情がある。カセットとかレコードとかで聞く方がしっくりくる音楽だと思う。

「What Kinda Music」 - Tom Mish, Yussef Dayes

Tom Mishのファンがどういう風に受け止めたのかは分からないけれど、彼に対する興味が深まった素晴らしい一枚。ビートセクションから人力感というか、人肌みたいなものが差し引かれづづけるポップミュージックの逆を張るような、オーガニックなドラムのタイム感と距離感。トラックではなくて、ちゃんと人間の演奏が聴ける録音のアルバムというか。さすがにキックのトリガーくらいは使ってるのかしら。

「Laura Marling」 - Song For Our Daughter

とにかく曲がいい。日本のフォークロックっぽい音楽が、四畳半の、衝動と見せかけた粗野の、ヘタウマのローファイみたいなところに逃げ込んで「中央線音楽」みたいになってしまうのに、同じフォークでもこの広がりと奥行き、ローエンドの豊かさ、どこを切っても素晴らしいとしか言いようがない。最高の技術(演奏、録音、ミキシングなど)こそが、彼女の何かをスポイルすることなくしっかり届けてくれる。お手本みたいな一枚。

「Herbier」 - Turntable Films

井上陽介の牛歩をずっと近くで見続けてきたゆえの感慨を差し引いても、今年の邦楽屈指のサウンドデザインではないかと思う。まあ、そういう洋邦の区分けは無意味だろうけれど。タンテ、岡田拓郎、ROTH BART BARON、それぞれの道を行くインディフォークの雄たちのサウンドには、もっと注目してほしいなと思う。すごいから。谷も陽ちゃんも心を折らないで、この続きをこれからも聴かせてほしい。ゆっくりでいいから。

後藤 正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

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WEB
www.asiankung-fu.com
www.onlyindreams.com/artist/gotch.html
gotch.info

BIO
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。
これまでにキューンミュージック(ソニー)から9枚のオリジナル・アルバムを発表。
2010年にはレーベル「only in dreams」を発足させ、webサイトも同時に開設。
また、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞『THE FUTURE TIMES』を編集長として発行し続け、2018年からは新進気鋭のミュージシャンが発表したアルバムに贈られる作品賞『APPLE VINEGAR -Music Award-』の立ち上げ、朝日新聞の朝刊・文化芸能面でのコラム連載「後藤正文の朝からロック」を担当するなど、音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目されている。

ソロアルバムはGotch名義として『Can’t Be Forever Young』(2014)やプロデューサーに元Death Cab for CutieのChris Wallaを迎えバンド録音を行った2ndソロアルバム『Good New Times』(2016)を発表。その後、Billboard Liveでのワンマンライブや全国ツアー、大型フェスティバルなどにも出演。最新作として2020年8月のRSD DROPSでは後藤自らミックスを手がけた作品『Nothing But Love』(Side B『You』)をアナログ盤 (12inch Single)にてリリース。
また、著書に『何度でもオールライトと歌え』(ミシマ社)、『YOROZU~妄想の民俗史~』(ロッキング・オン)、『銀河鉄道の星』(原作:宮沢賢治, 編:後藤正文, 絵:牡丹靖佳, ミシマ社刊)、他。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONとしては、10月7日に1年5ヶ月振りとなるシングル『ダイアローグ / 触れたい 確かめたい』がリリース。

今年開催予定だったツアー「酔杯2」が延期・中止となったが、10月末に全国ツアーに出演予定だった全ゲストアーティストを迎え、有観客収録配信ライブをKT Zepp Yokohamaにて3日連続で開催。このライブの模様は、12月18日(day1)・19日(day2)の2日間に振り分けて編集し、配信された。

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