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ソフトタッチ『リビルド』オフィシャル・インタビュー

何曲か、“社会”というワードが歌詞に出てきますよね。あまり歌として聴くことがない言葉だと思うのですが、これは佐野さんご自身が社会に出て働くという経験をされる中で、他者との関係性友達や仲間、恋人、家族みたいな近しいところとはまた違った人間関係を体験したからこそ書けたものなのかなって。

佐野 そうですね。30歳を節目に、社会に出て働き始めたんですけど、そこから今までに感じたことや思ったこと、よかったことや残念な思いをしたこと……そういうものを私小説風に書くのではなく、すべてひっくるめたものとして捉えたいな、と。今っていろんな人がいろんなことを言うじゃないですか、社会について。それに対して僕はすごくネガティブな印象を受けるんですけど、そうやっていろいろ言うのって、本音のところでは何かを求める気持ちがあるからじゃないの?って思うんですよ。だったら、そこに立ち返った上で、社会生活に希望を持っていようよ、みたいなことを提示できたらいいなって。

佐野さんにとって歌詞を書くという行為はやっぱりご自身の音楽作りにおいて不可欠なものですか。

佐野 でも歌詞を意識し始めたのはここ数年なんですよ。今まで意識してなかったわけではないんですけど、音楽において歌の持つ重要性を感じるようになってきて、言葉の端々に今まで以上に注意を注ぐようになりました。

ちなみに曲と歌詞、どちらが先に?

佐野 曲先ですね。

そうなんですね。曲と詞が一緒に出てきているような一体感があったので。

佐野 ありがとうございます。曲と歌詞もそうなんですけど、自分の中で気になるのは声だったりもするんですよ。自分の声がいちばんシリアスに聴こえる部分が、おそらく誰かに伝わる部分になるのかなって思うんです。なので、そういう部分をいつも探してますね。

じゃあ歌を録るときはかなりシビアに?

佐野 レコーディングはシビアでしたけど、それにも増して、最初にメロディを作って、そのあと言葉を乗せるっていう作業にいちばん気を遣っているかもしれないです。シリアスな声になる部分というのを想定して一回、メロディのチューニングを施すんですよ。昔は“キャッチーなメロディ”っていう形容があるように、言葉も印象に残るフレーズが繰り返されているものがみんなの心に届くのかなって思ってたときもあったんですけど。でも僕の場合はシリアスな声のときがいちばん……なんていうのかな、スピーカーから手が出てくる感覚というか、そういう現象が起きてるって気づいた瞬間があって。そのへんから言葉に、メロディに注意を払うようになりましたね。

面白いなぁ、でも、すごくわかる気がします。ではサウンドの方向性に関しては何かテーマはあったんでしょうか。

佐野 今の4人で鳴らしたい音っていうんですかね、4人それぞれのキャラクターを尊重したサウンドがテーマでした。メンバー個人個人にバックボーンがあって、例えば90年代のロックが大好きだったとか、日本の90年代のバンドブームが大好きだったとか、そういうのをみんな経歴として持っているので、どんどんそれを出そうっていう。

曲の構成的には、よくあるAメロ-Bメロ-サビ、ではないですよね。

佐野 むしろAメロ-サビ、Aメロ-サビって繰り返してます。

そのループする感じがクセになるんですよ。すごく中毒性の高い音楽だと思うのですが、そのへんは狙ったものなんでしょうか。

佐野 狙ったというか……最近の自分がどういう音楽を聴きたいかというと、すぐに気持ちいい部分、カッコいい部分が出てきてほしかったりするんですよ(笑)。説明なんかはカットして、気持ちいいシーンの羅列できてくれたほうがモダンだなと思ってて。そういうところからだと思いますね。

歌詞には熱いものが溢れていても、その熱に引きずられることなく音楽として気持ちよく聴けるのは、そういったサウンド面での作用も大きい気がします。一方で、だからこそ言葉がスッと入ってくるんだとも思うわけですけど。いずれにせよ、今の日本のシーンにはちょっとない音楽だな、と。

佐野 嬉しいです。たしかにロックのフォーマットからすると“ロック然”とはしてないですよね。それはおそらくダンスミュージックに近いフォーマットをギターロックに重ね合わせてるところがあるからだと思うんですよ。四分打ちとかの具体的な手法ではなく、もっと概念的なところでの話ですけど。

グワッと叫んで、とか、ギターソロがギャンギャンに鳴って、みたいなエモーショナルさではないところで感情を掻き立てるという。

佐野 そうですね。適材適所というか、ここで入ってくると素敵に聴こえるなっていう箇所にはソロも入れているんですけど、単に一回目のサビが終わったからソロを入れるとか、そういう無造作なことはしてないです。もっと別の方法があるんじゃないかってより疑り深く作っていくのが今の自分だったりするので。

全11曲、それぞれに思い入れがあると思いますが、中でも“これはよく書けた”とご自身が思うものは?

佐野 11曲目の「共同幻想」のサビかな。一行目の“そして共同の幻想よ 今を見せておくれ”っていうところ。みんなで何かを作り上げるとか、関わり合うということを自分の中で“共同”っていう言葉に置き換えさせてもらっていて。他者の前提と自分自身の前提って実は違うかもしれないけど、でも、そこに何らかの信頼があった上で何かが作り上げられるっていうのは“幻想”なんじゃないかと思ったんですよね。“幻想”って否定的な意味じゃなく、現象に近いのかなって思ってるんですけど。そういうものに対して“今を見せてくれ”と語りかけるっていうのは、自分の中ではガッツポーズでした(笑)。

「TODAY」の“心 消さずとも寄り添う想いここにあるのだろう”という一節にもグッときます。

佐野 日常生活の中で他者とはいろんな繋がり方があると思うんですよ。ホントは“心消す”っていう行為をしなくても横にいるだけでいいっていうか、全然知らない人でも横にいるだけで自分ひとりじゃないって思えたりするじゃないですか。それだけでも何らかの作用があるし、そのことがすごく力になるんだろうなって思うんですよ。ただ、逆にそれが行き過ぎちゃうと“群れる”とかいう言葉になっちゃうと思うんですけど。

仲間だとか絆だとか表面的なものに縛られない、もっと深いところでの繋がりというか、個を尊重した上で、でも一緒にいられるよねってことなのかなと解釈したのですが。

佐野 そういうことです。“コミュニケーション”っていう言葉とか、ちょっと形骸化してきている気がするんですよ。例えば“もっと会話を大事に”なんて言われますけど、会話は手段のひとつであって、何らかの信頼関係が繋がっていれば会話なんてなくたって目的としてはよかったりするじゃないですか。そういう“目的”というものに対して自分は訴えかけていけたらいいなって。

今の社会はコミュニケーションを謳うわりに、非常に殺伐としているところがありますよね。

佐野 実際、僕もそういう場面を目にすることがあって。そういう中で蓄積された言葉たちだったりしますね、ここに書いていることは。

『リビルド』というアルバムタイトルには、どんな意味が込められているんでしょう。

佐野 “リビルド”は“再編”“再構築”という意味の言葉で。私的なところで言えばソフトタッチ自体のことでもあるし、先ほどお話したような、人との繋がり方とか、コミュニティや地域、社会的ところでのシステムや仕組みがもう一回、再編し直される必要があるんじゃないのかっていう。そういう観点で、再構築したい、再編できたらなっていう想いでタイトルに付けました。

アルバムジャケットにも作品のテーマが滲んでいますね。

佐野 オフィスビルと居住ビル、パブリックとプライベートが俯瞰できるものというのがイメージとしてあったんです。で、道路とかの動きっていうのはその中を行き来する生活者たちっていう。作品にはプライベートなものより、どちらかというとパブリックなシーンを入れたいと思っていたので、それをちゃんと描写した、すごくいいジャケットになりました。

『リビルド』の制作後も新たな曲がどんどんできていると聞きました。さっそく後藤さんにも送られたそうで、近いうちにまた新しい作品が聴けそうですね。

佐野 はい! できる限りやらせていただきたいと思ってます。

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