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(2017.12.28)

2017年ベストアルバム

2017年、今年リリースされたアルバムを中心にアーティストや音楽関係者にベストアルバムを選んでいただきました。

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Matthew Caws(Nada Surf)

ワット・ナウ
What now?
Sylvan Esso
Heavy Meta
Heavy Meta
Ron Gallo
Cockfighters [輸入盤12インチ] (OLE11091) [12 inch Analog]
Run the Jewels 3
Run the Jewels 3
Run the Jewels
Stranger in the Alps
Stranger in the Alps
Phoebe Bridgers
Care
Care
David Bazan
メンタル・イルネス
Mentall Illness
Aimee Mann
Easy Life
Easy Life
Ruler

何年か前、Bruce Springsteen がある音楽カンファレンスで大勢のミュージシャンを前にスピーチをして、こんな感じのことを言っていた―――「今夜弾けたとき、思い出して欲しい。自分こそがロックンロールに起きた最高の出来事だってこと。それと、自分がイカれた奴だってこともね!」。彼が言わんとしていたのは、自分の中に相反する考えを同時に持つことの重要性だ。これは人生のあらゆる面において非常に意義深いことだと僕は思う。それは例えば、自分とは信条の違う誰かに好感を持ったり、その人と自分との間に多くの共通項を見出したり、といったようなことだ。僕らは、こういった矛盾を孕んで生きるように作られている。皆が死すべき運命と共にありながら、一方では人生の長さを謳歌してさえみせるのだ。リストを作成しながら、自分が選んだアルバムやアーティストの中には、矛盾や、対比、一見相反するような考え、といった要素が色々と含まれていることに気付いた。彼らのこういった部分にこそ僕は惹きつけられたのだろう。では、終わることのない素晴らしい一年を!

Sylvan Esso / What now?
Minor Alpsとして初期の頃のSylvan Essoと一緒にツアーをしたが、とても人柄のよい彼らへの贔屓(ひいき)目を抜きにしても、自分が何か特別なものを目の当たりにしているということを感じた。エレクトロを主要とする音楽とボーカルの夫婦的コンビネーション。そこには、あまりにも多くの要素――愛欲/モダン/サウンドスケープ/古典的な民族音楽/ヘッドフォンで聴く個人へ向けた詩歌/大衆向けの詩歌/ダンスフロア向けの音楽――が同時に混在している。2017年お気に入りの一枚。

Ron Gallo / Heavy Meta
全盛期のJonathan RichmanとBlue Cheer が交差する。厚かましさと繊細さを同時に感じ取りながら、騒々しくエネルギッシュなトリオに耳を傾け、混乱とパフォーマンス・アートの中に身を投じてみて欲しい。20% サイケデリア、20% 社会的主張、20% ヘビー・ガレージロック、20% ポストパンク。残りの20%は、まだよく分からない。

Spoon / Hot Thoughts
スプーンのアルバムコレクションに、また素晴らしい一枚が追加された。彼らは相変わらず、最高の形で掴みどころのない音楽を作り続けている。それは、具体的であると同時に抽象的だ。僕は音楽を聴くときは歌詞に集中する方だが、スプーンの場合だとちょっと勝手が違う。もちろん詩そのものはとても素晴らしいから曲の最後には必ず追えるようにするのだけれど、まずは音楽の中にある知性やアレンジがダイレクト訴えかけて来て、それに捕われてしまう自分がいる。去年は彼らを三度観させてもらった。僕の中では、今実在するなかで一番のライブバンドだし、そのアルバムは他の誰にも劣らないと思う。

Chavez / Cockfighters (EP)
Chavezは、1995年 から1996年にかけての期間限定で、僕の中ではビートルズとして君臨していた。彼らが長きに渡って愛されるべき価値のないバンドだと言いたい訳ではない(むしろ紛れもない一流だ)。ただ単に、僕の愛着の強さがさほど長くは続かなかったというだけのことだ―――丁度その頃僕らはツアーを始め、彼らはショーでのプレイを止めてしまったから、もう観ることがなくなってしまったのだ。それでも、ニューヨークの小さなクラブで彼らを初めて観た時の興奮は、ほとんどヒステリーに近い感覚として僕の中に残っている。彼らは、曲の中のブリッジに重きを置いていると、どこかで読んだことがある。その文章の中で彼らは、Blue Öyster Cultの"Don't Fear the Reaper"を例に、そのドラマチックで大胆なブリッジについて論じていた。そこにあるのは、瞬間を幾つも繋ぎ合わせていくという考え方であり、彼らはまさにそれを実践していた。その音楽は、山々をどんどん飛び越えていく感覚を覚えさせる。音楽制作を21年もの間休止していたが再びシーンに戻って来て、なおもドラマチックであり続けている。ギターとベースが民族音楽をヘビーロックに融合させ、ロジックを拒否するドラムスは混乱を秩序へと導く。全体としては圧倒的にユニークであり、今なおスリリングだ。

Run the Jewels / 3
非常に優れた社会政治的ヒップホップ。Run the Jewelsは、可笑しくも生真面目なバンドだ。その音楽は、ギャングスタ・ラップの如くエキサイティングだが(実際、そのバンドネームは強奪を示唆している)、歌詞ではリアルな倫理性を説き、セックスとドラッグ(そしてロックンロール)を肯定しつつも、不誠実さや貪欲、無関心といったことには容赦がない。自身のことも歌っているが、これだけバンドが良ければそれも面白味があり、ロマンチックに響く。2017年の一週間前にリリースされたということは見逃してもらいたい・・

Phoebe Bridges / Stranger in the Alps
ポップミュージックの生み出す幻想がとても好きだ。新しいアーティストの登場によって、新たな世界が目の前に開かれたようになるあの感覚。それがたとえ、既存の焼き直しであっても、どこかで聞いたことのあるコードやメロディーだったとしてもだ。アーティストの血にバイタリティが宿っている限り、その手を通して、口を通して、頭脳を通して、聴き手の耳へと感情の転移が広がっていく。音楽を聴いた人は、自分の中にある「美術・経験」の格納庫に新しいフォルダーが追加されたかのような、または気軽な現実逃避の手段を得たかのような、そんな気分を味わうことが出来る。Phoebe Bridgesのデビューに注目したい。キーワードは、パーソナル、ユニバーサル、緻密、誠実、勇気、そして安らぎだ。

David Bazan / Care
彼の全てのアルバムを持っている訳ではないが、随分楽しませてもらっている。彼の昔のバンドPedro the Lion の一枚と、残りはソロアルバムだ。ディープでソリッドな歌声はすぐさま独特の印象を残すので、聴き手にとっては常に同じ人の声であると分かるし、彼の場合はそれが素晴らしい効果を生んでいる。「ソリッド」という言葉は、彼が織りなす詞やフレーズ、音楽そのものにも当てはまる。正しく刻まれたペーシング、野心的でディープな思考、感情的観察の正確さは、ほとんど科学者の領域だ。ある時のアルバムはヘビーロック、あるものはアコースティック、そして今回はエレクトロ。どれも変わらずいい。新たに加わった、素晴らしい一枚。

Aimee Mann / Mentall Illness
すでに長年に渡り音楽を世に送り出していたAimee Mannのことを自分の中で芸術とリアルにリンクさせたのは、映画「マグノリア」のサウンドトラックでのことだった。以来、先取りしたり、過去に遡ったりしながら彼女を探り続けている。その音楽にみられる矛盾性は、とことん極めているようでいて、逆に彼女の弱点でもある。彼女の歌詞は、感情的困難とそこからの回復との間にあるギャップを彷徨っている。ギャップは同様に、彼女の声の中にも見られる。声を大きくしたNick Drakeといった感じのソフトさがあるが一方で、力強さと一貫性をも奏でている。内に秘めた豊富なセレクションから紡ぎ出されるメロディーやフレーズは、常に上質で伸びが良い。圧倒的にスマートで、聴き応えのある一枚。

Ruler / Easy Life (single)
これまでRulerとして音楽制作をしてきたMatt Bateyが、僕がアメリカで所属する音楽レーベルBarsukと新たに契約してシングルをリリースした。パワー・ポップ満載。そのキャッチ―な聴き心地は、訓練と実践、運と努力、幸福感と打ちのめすほどの絶望から来る葛藤を通して生み出されたものだ。そこには、いわゆる企業生活の安定や快適さなどといったものとは無縁の、クリエイティブなフィールドで人生を送らんとする人物の日常が詰め込まれている。今後、アルバムのリリースも楽しみだ!

Pink / Beautiful Trauma
実は僕がこのアルバムで聴いたのは "What About Us" という一曲だけで、それも先週、ニューヨークのタクシーの中で耳にしたばかりだ。ニューヨークのタクシーの中で僕は、Ed SheeranやDrakeなんかを聴くことにすっかり慣れ切っていたが、そのどれに対しても特にこれといった批判はないものの、何となく彼らの最近のヒット作にはほとんど興味が持てないでいた。我々は、ハドソン川とマンハッタンの摩天楼の山並みとの間を赤いテイルランプで照らしつつ足早に伸びていく長い車列の帯を辿りながら、FDRドライブを上っていたのだけれど、そんな時、彼女のこの歌は、僕の心にも、耳にも、とても心地よく響いた。彼女が果たして、別れたカップルだとか、大富豪ではなくて窮状にあえぐ米国市民だとか――いずれにせよ政治にはもう興味を失ったように見える人々――について歌っているのかどうかは分からない。歌詞に注目することがなかったから、本当によく分からない。ただ僕が分かっているのは、ラジオから流れる商業的な音楽と共鳴することが出来た時は、その国のそれ以外の部分とも心のつながりを感じることが出来ているということだ。だから、このアルバムの他の曲もきっと素晴らしいものなのだろうと思っている。

Matthew Caws(NADA SURF)

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WEB
www.nadasurf.jp (JP)
www.nadasurf.com (US)
NADA SURF / only in dreams
Minor Alps / only in dreams

BIO
NYブルックリンの3ピース・パワーポップ・インディーバンド、ナダ・サーフのフロントマン(G/Vo)。
高校の同級生だったマシューとダニエル・ロルカを中心に93年頃活動をスタートさせたナダ・サーフ。96年デビュー・アルバム『High/Low』が大ヒット、切ないメロディを乗せた瑞々しいポップ・ロックで“ポストWeezer”と賞され一躍メディアを騒がせる存在に。その後、『The Proximity Effect』(98年)『Let Go』(02年)『The Weight Is a Gift』(05年)『Lucky』(08年)『If I Had A Hi-Fi』(2010年)、そして最新作となる『THE STARS ARE INDIFFERENT TO ASTRONOMY』(12年)、とコンスタントにアルバムをリリース。結成以来20余年、豊かな音楽性とセンス、実力を合わせ持った真のインディーとして活動を続け、パワーポップファンのみならず幅広く音楽ファンからリスペクトされる存在である。
日本では、NANO-MUGEN FES. 2009での待望の初来日を果たして以来、SUMMER SONICや単独公演などでも度々来日公演を行っている。
マシュー個人としては、ジュリアナ・ハットフィールドとのニュー・プロジェクト、MINOR ALPSも始動、アルバム『GET THERE』(2013年10月)をリリース。

2016年3月ナダ・サーフのニュー・アルバム『You Know Who You Are』をリリース。
オリジナル・アルバムとしては『Stars Are Indifferent to Astronomy』以来4年ぶりのリリースとなる本作には、 全10曲が収録。
日本で撮影制作されたセカンド・リード曲「Rushing」のTokyo Version(対訳入り)も公開中。

そして今年2018年、アルバム「Let Go」のリリースから15周年となるアニバーサリーライブが4月6日スイスのチューリッヒを皮切りにツアーがスタート!

さらに「Let Go」15周年企画の一環としてRon Gallo, Aimee Mann, Manchester Orchestra, Ed Harcourt, Rogue Wave などの素晴らしいアーティスト達による癌を患う子供たちを支援するアルバム“STANDING AT THE GATES: THE SONGS OF NADA SURF’S LET GO” のデジタル配信(2月2日)、CDアルバム(3月2日)、アナログ(TBA)の発売が予定されています。

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