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Gotch『Good New Times』インタビュー
(2016.06.24)

では、ここからは各曲について訊かせてください。タイトルトラックの“Good New Times”は〈ポケットにはジャック・ケルアック 新しい世紀のイメージを言葉にして僕らは歩むんだよ〉という歌詞から始まっていて、前編でも話が出たビート文学との直接的なリンクを感じさせますね。

Gotchビート文学のことはしばらく意識していて、どうやって新しいイメージで歌おうかってことはずっと考えてたんです。俺たちの魂はずいぶん前からある種の荒廃というか、虚無みたいなものにさらされていて。それは何もかも豊かそうに見えた50年代のアメリカ、オールディーズがあって、コカコーラがあってっていう時代に生まれたビート文学と繋がるところがあるというか、ロスト・ジェネレーションとビート・ジェネレーションは近いんじゃないかと思ってて。俺は勝手に「魂の解放運動」みたいな呼び方をしたいと思ってるんです。だって、大きなフェスとかに行っても、「これじゃない感」しかないですもん。「何だこのマスゲームは?」って。でも、誰のことも責めたくないじゃないですか? みんな楽しそうなのはわかるんだけど、でも何か違う。「みんな違ってみんないい」って言葉に感動したはずなのに、結局みんな同じことをしてるじゃないかって思うから、もっともっとみんな違っていい、もっともっと自由でいいんだっていう、それをどう音楽でアピールしたらいいのかっていうのは、今後もトライしていきたくて。

そのためのヒントをビートニクに求めたと。

Gotchケルアックの『On The Road』って、「路上」って訳すのはちょっと違うんじゃないかと思ったんです。「我が道」とか「それぞれの道」みたいな意味もあるんじゃないかなって。「路上」って訳したくなるのはわかるし、間違いじゃなかったと思うけど、もうちょっと多角的な、いろんな角度から見ることができる言葉なんじゃないかなって。

Gotchさんがビートニクの中で見出した「自由」のイメージはどういったものだったのでしょうか?

写真 Gotchもちろん、薬でもやって自由になろうぜって感じじゃないですよね。今の時代はそれをシラフでやらなきゃいけないんじゃないかなって。ネットの影響もあると思うけど、みんなどんどん写実だけが上手くなっていて、現実の厳しさだけがどんどんクリアに見えるようになってきてるから、ヒッピー的な逃避はもう効果がないと思うんですよ。写実的に描写された現実に尻尾を掴まれちゃう気がする。だから、俺たちはもう少しやり方を考えなくちゃいけなくて。もう逃避じゃないんだっていうね。バキバキに硬直した何かを緩ませていく以外に、俺たちが解放される瞬間っていうのはなくて、しかも現実から離れた場所ではなくて、現実の中で解放されないといけないと思うんです。

なるほど。

Gotchこれって禅の教えにも近いんですよね。静かな部屋で瞑想して得られるものに何の意味があるのかっていう。「安禅、必ずしも山水を用いず」という言葉があるように。仏教にしても、大乗仏教みたいな、庶民と一緒に苦しみながら悟ってなんぼなんじゃないかって。美術館の中にあるものの美しさもわかるけど、音楽や表現って本来そういうものなんじゃないかな。

今の「現実の中での解放」という話と、アルバムのアンビエントなサウンドには結びつきがあると言えますか?

Gotchどうなんでしょうね……そこは自分でもちゃんと分析できてなくて、サウンドに関しては、単純にこれが気持ちいいっていうか、数学的じゃないところに美しさがあるっていうことにみんな気づいてると思っていて。ヒップホップだってどうずらすかって考えてるでしょ?

グリッドに合わせるんじゃなくて、そこからずれたものに気持ちよさを感じるっていうのはありますよね。

Gotchずっと鳴ってるノイズなんて、どこが始まりでどこが終わりかもわからないし、1分間同じ楽器から出た音がちょっとずつ変化しながら鳴ってて、それは言葉では捕まえられない。今回俺たちが鳴らしてる音っていうのは、村上春樹でも大江健三郎でも描写できないと思う。そこには圧倒的な情報量があるんだけど、言語的には一切回収できない。それが音楽の美しさだと思うんです。それをポップスでやるのは難しいっていうか、鳴らすことでしか意思を表明できないんだけど、そういう要素を楽しんでくれる人が一人でも増えたら演奏する側も楽しくなると思うし、自分たちが音楽をやるっていうことは、そういう運動の一部なのかもしれないなって。

その感覚にどうにかして言葉をつけるなら、それが「Good New Times」だと。

Gotchそういうことですね。「何となくこの言葉が近い気がする」っていう感じです。「自分たちのやってることを一言で言い表してください」って言われたら、「Good New Times」かなあって。それぞれの曲や言葉、歌はどれも捨て置けないものだけど、今回の作品はその周りで鳴ってる何とも形容できない、音楽でしか形容できないフィーリングだったり、実際に鳴ってる音にみんなが何かしらを感じてくれたら嬉しいかな。

少し斜めから見ると、ルイ・アームストロングの“What a Wonderful World”が、ベトナム戦争で世界が素晴らしくなかったからこそ書かれた曲であったように、世界がまだまだバッドでオールドだからこそ、“Good New Times”を歌う必要があったのかなって。

Gotchそういうのもありますよね。アルバム1枚通してあまりよくない瞬間が書き綴られていて、その中でやり直したり、調停者がさじを投げてたり、「それでも笑ってよ」って言葉があったり、前作から続く「生きることと死ぬこと」っていうテーマもあったり、そういうのは全部あまりよくない社会や世界の中で繋がってるんだけど、でも生きてる限りはその「良くなさ」に抗いたいなって。現実っていう分厚い本があるとしたら、その中の2~3ページは、俺たちがポジティヴなページを、読んでる人がフワッとゆるむようなページを挟めたらいいなって。最悪なものを最悪だって告発すること、そういう時代はもう過ぎて欲しいと思う。アノーニでアントニーが書いてることをみれば、まだまだある種の告発には力があると思うけど、でも俺はその先をやりたいと思ったんだよね。もちろん、あの人はとても慈愛に満ちた人で、最終的には愛があると思うから、そういうものであったらいいなって。

表現の方法は違っても、「魂の解放」に向かってるという意味では、『Good New Times』も『Hopelessness』も通じるものがあるんじゃないかと思います。

Gotch嘆きながら、うなだれながらも、最後のところで踏ん張っていられればいいかなって。そういう感じがしますね。

“Good New Times”は日本語詞ですが、“The Sun Is Not Down”は英語だからこそ書けた歌詞だと思ったし、素晴らしい曲だと思いました。この曲の着想はどこから生まれたのでしょうか?

Gotch最初は音楽的なことからはじめて、どうやって韻を踏むのかってことが主題でした。行の頭の言葉の語尾で韻を踏んで、それを説明するように歌詞を書いていこうと書きはじめたんですけれど、「borders」「soldiers」「Consumers」って、書いてるうちに普段から自分が考えている社会的なことが溢れ出てきてしまって。「Obama」や「Damascus」も。

日本語だとそういう固有名詞がピックアップされちゃって、書くのが難しいと思うんですよね。

Gotchそれは言語的な文化の違いかもしれないですね。日本人は言葉を受け止めすぎるというか、意味を追っかけて捕まえる。サウンドとして聞き流さないように思います。だから、英語じゃないと書けないっていうのはホントにそうだと思います。

前作はこういう社会的なテーマって、意図的に排除されてたと思うんです。

Gotch“Wonderland / 不思議の国”とかでも書いたつもりでしたけれど。

直接的な表現は避けられていたというか。

Gotchそれこそ日本語でやるのは難しいってい想いもあったし、ソロではもう少しリラックスしたものを作りたいってモードだったかもしれない。アジカンとか、『The Future Times』とか、いろいろ張りつめてやってたから、箱庭的というか、好きなものをリラックスしてやりたいって気持ちがあったけど、今回は英語で世界中の人に向けて歌いたいことって何だろうって気持ちもあったし、今の自分がどんなことを書けるのかっていう興味もあって、そういう中でこういう曲も書きたくなって……。でも、自分でコントロールできてたのかもわからないですけどね。英語の時点で日本語のようにはコントロールが効かないわけで、韻にも縛られるし、そもそもボキャブラリーが少ないから、ディクショナリーの力をすごく借りたしね。ライブで辞書のこともメンバー紹介した方がいいんじゃないかと思いますもん(笑)。

それくらい欠かせないメンバーだったと(笑)。じゃあ、“The Sun Is Not Down”は自分が思っていた以上にメッセージ色の強い曲になった?

Gotch「こんなこと歌っていいのかな?」って悩みながら書きました。オバマのこともシリアのことも歌っていて、なおかつ、自分の娘を殺された人のことを歌ってるわけで、すごい曲だなって思うけど、でも出てきちゃったからしょうがないんだよね。当事者でもないし、ある種の不謹慎さはあると思うけど、でも「当事者じゃない」って言い切るのも違う気がする。まあ、英語圏の人が読んでどう受け止めるのかは全然想像がつかないから、ここで巻き起こる反響も自分にとって勉強になる気がする。「こういうことをこういう風に歌っちゃいけない」ってなるかもしれないし、「よく歌った」ってなるかもしれないし、そこはわかんないんだよね。

クリスであったり、マシューだったりからは何か反応がありましたか?

Gotchクールだって言ってた。クリスは「社会的な作品だ」みたいなことをポロッと言ってたから、いろいろ感じてくれたんだと思う。マシューも1曲書いてくれて、僕が歌いやすいように平易な言葉を選んでくれたと思うけど、テーマ的には逸れてないし、普段俺が歌ってることも意識して書いてくれたんじゃないかなって思います。でも、いつも翻訳をしてくれる松田さんにマシューの歌詞を送ったら、「この言い回しはおかしくないですか?」っていう返信が来て、「僕が書いたんじゃないです」っていう(笑)。だから、詩を書くっていうのは、ちょっとした失敗を恐れないってことなんじゃないですかね。「てにをは」が違うだけで日本語は意味が変わるけど、それが合ってるかどうかよりも、新しいフィーリングを喚起できればよくて。レッチリの有名な曲名の「Californication」なんて言葉も、本来はないわけだし。自由なのがいいなって思いますね。
写真

マシュー以外にも、2曲目の“Paper Moon”は井上さんの作詞作曲ですね。

Gotchこれは陽ちゃんが勝手に作ってきたっていうか(笑)、俺に「これやりたい」って言わせるかのように、スタジオでiPhoneで曲を流して。「いい曲じゃん、歌わせてよ」って言ったら、「ホンマですか?」って(笑)。自分のバンドでもやるのも違うし、ソロでやるのも違うしって感じだったみたいです。

僕最初この曲聴いて歌も井上さんなのかなって思ったんですけど、そうではないんですよね?

Gotchそれは陽ちゃんの縛りがすごかったからだと思う。「めちゃめちゃ縛りきついな。がんじがらめやな」っていじりながら録っていたので(笑)。彼の中で、自分がこのバンドでやりたいことのビジョンがはっきりあったんでしょうね。他の曲でも、アルバム全編で彼は大活躍してくれました。

あとは“Baby Don’t Cry”のことも訊いておきたくて、前回のツアーですでに披露されていた曲ですが、このバンドのテーマソングだなって思いました。

Gotchこの曲はCSN&Yの“Helpless”とか、ザ・バンドとか、その辺を思い浮かべながら作った曲で。意外とクリスにも伝わってるなって思ったのが、普通に歌ってる音の下にめちゃめちゃ低い声でユニゾンを重ねたんですけれど、それが最近のジジイになったボブ・ディランの声みたいな音色でミックスされていて(笑)。テーマソングっぽいですかね?

ボヘミアンのテーマソングっていうか、ツアーを意識して書かれたからっていうのもあると思うんですけど、〈君の日々はどうだい 僕は今でも相変わらずだよ〉っていう歌詞が、「僕はこれからも旅を続けるよ」っていう、それこそ『On The Road』の感覚っていうか、「魂の解放」とか「自由」を感じさせる曲だなって。

Gotch僕の最初のイメージは、日本中の女の子たちのことを歌おうと思って。AKBになれなかった子たちの歌だと思って作ってたんです。今、多くの女の子たちはアイドルになりたがっていて、そういう子たちのそれぞれの生活を祝福するような曲であればいいなって。でも、そういう受け取り方もあるんですね。

いろんな受け取り方ができると思うけど、文句なく名曲だと思います。そして、このインタビューが掲載される頃には、「The Good New Times」とのライブ活動も始まっています。「再現性は重要視しない」という話でしたが、どんなライブになりそうでしょうか?

Gotchまあ、まったく違うわけじゃないんだけど、まったく違ってなくても、俺たちにとっては違うんだっていうのは大事ですよね。キーがAの曲をDにして初めて違うわけじゃなくて、ちょっとした違いもまったく違うことなんだっていうか、毎回場所が違えば違うし、ほんのちょっとの違いを楽しめれば、それはすごいいいことだと思います。最初に「フェスがマスゲームみたいで気持ち悪い」って言っちゃったけど、でもあれも同じように見えて本当は一人ずつ違うんですよね。それはわかってる。一人一人のことを言ってるんじゃなくて、妙に同調的な秩序を感じて、なんか嫌なんだっていうね(笑)。

やっぱりオーディエンスはある種ステージの映し鏡だと思うから、まずはステージ上が自由であることが、オーディエンスも自由になる条件だと思います。

Gotchもちろん、俺たちが自由にやってるっていうことがありきで、それを自由に楽しんでもらって、そういう自由なやり取りがループしていけばいいなって思います。まあ、あんまり構えずに、「楽しみに来てよ」って感じなんですけれど。俺たちのライブがある人生とない人生を考えたときに、あった方が豊かなんじゃないかっていう、そういう性質のものではありたいと思うし、みんなにとってもそういう時間になると思うから、まずはおいでよって感じかな。

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Good New Times(CD/デジタル・ダウンロード)
Good New Times(LP)