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BENJAMIN BOOKER
(2015.03.20)

 昨年の夏にデビュー・アルバムをリリースしたベンジャミン・ブッカー。フロリダ育ちでニューオリンズを拠点として活動しているシンガーである。そのバックグラウンドが語る通り、フロリダで体感したパンク・シーンの影響を十二分に受けた荒々しいガレージ風ロックンロール/パンク・サウンドの中で、ブルースの魂を体現したかのような、その天賦の才とも言える声でシャウトする。イギリスの名門レーベル ラフ・トレードと契約、シングルを1枚リリースしただけで、ブルースとパンク/ガレージ・ロックンロールをモダナイズした偉大な先達ジャック・ホワイトから直々に指名を受けツアーにも同行して注目を集めた。アメリカ南部の音楽の歴史や伝統と、パンクの初期衝動の絶妙なブレンドに興奮させられる新世代のシンガーソングライターだ。今や日本を代表するガレージ・ロックンロール・バンド、THE BAWDIESの音楽が好きな人などにも聴いてもらいたいアーティストでもある。今回、今年のフジロックへの出演が発表された。
 そんな彼が先月来日公演を行った。その背景をもっと聞いてみたくて、ライヴ前に会いに行ってきた。

(取材・文・撮影 : 古溪 一道)

ヴァージニアで生まれて、フロリダのタンパで育ったと聞きました。その街が自分の音楽に影響を与えたところはありますか?

「そうだね、フロリダって昔からパンク・ミュージックが盛んな街だからよく観に行ってたよ。アゲインスト・ミー!とか、あとは…あんまり有名じゃないバンドだから知ってるかなあ…(と言ってノートに名前を書き出す)…BadeatinghabitsとかThis Bike Is A Pipe Bombとか。アゲインスト・ミー!は今じゃ僕が聴いてた頃とは違う感じになっちゃってるけどね」

大学を出たあとにニューオリンズに引っ越したとありますが、ニューオリンズに関してはどうですか?

「うん、ニューオリンズにはWWOZって有名なラジオ局があるんだけど、そこでは50年代の音楽、特に初期のロックンロール、リズム&ブルーズとかがよくかかってて、それをずっと聴いてたね」

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あなたの音楽を聴いてまず惹き付けられるのは、アメリカ南部のブルースの歴史を感じるようなその声だと思います。一方で、サウンド的にはブルース以上にパンクの影響が大きいと感じます。

「最初に曲を書き始めたときに自分が持ってたアイデアっていうのは、ブルースやゴスペルのメロディをパンク・ミュージックのサウンドでやっていうものだったんだ。さっき挙げたThis Bike Is A Pipe Bombとかはフォーク・ミュージックをパンクに演奏するって感じだったんだけど、自分のはそれをブルースに置き換えた感じかな。だからフロリダでそういったパンク・バンドを観てなかったら、いま自分がやってるようなことが可能だとは思わなかったかも知れないね。おかげでいろんなものを組み合わせることが出来るんだってことを学べたよ」

自分の中ではブルースとパンク、どちらの要素の方が大きいと感じますか?

「(即答で)パンクだね」

「アイ・ソウト・アイ・ハード・ユー・スクリーミング」の歌詞で匂わせているニルヴァーナ(来日時のラジオ出演でも「カム・アズ・ユー・アー」を歌っていた)を含めたグランジの影響も大きいですか?

「うん、若い頃よく聴いてたね。アメリカでティーンエイジャーでギターを持ってたとしたら、みんな最初にコピーする曲はニルヴァーナみたいなグランジ・バンドの曲だった…そんな感じかな。いつも周りで鳴ってた音楽だからね」

シンガーとして好きな人、憧れる人はいますか?

「うん、まずはオーティス・レディング。彼のメロディ・センス、ソウルフルなところがすごく好きだね。それからブラインド・ウィリー・ジョンソン(1920年代にアメリカで活動していたゴスペル・シンガー/ブルース・ギタリスト)。彼のダイナミックなところ、荒々しさと柔かくて優しいトーンがどちらもあるところは素晴らしい。コナー・オバーストのヴィブラートも大好きだし、あとはカート・コバーン(ニルヴァーナ)の生々しさ。怒りの表現とかね。この4人はよく聴いてたよ。それぞれ、ソウル、ブルース、フォーク、ロックを代表するようなシンガーたちだね」

ジャック・ホワイトもあなたのヒーローのひとりで、オープニング・アクトをやったとも聞きました。彼から影響を受けたところはどんなところでしょうか。

「実は初めて買ったレコードが(ザ・ホワイト・ストライプスの)『エレファント』だったんだよね(笑)。僕らは音楽のテイストが似てると思うよ。彼もパンクやブルースにすごく傾倒してるし。2、3週間一緒にツアーして、トータルで25時間くらい彼のパフォーマンスを観たんだけど、学ぶことが多かったよ」

その学んだことの中で、今後の自分にも生かしたいと思うことはありますか?

「そうだなあ…彼はステージでリスクを冒すことを怖がらない人なんだよね。セットリストもないし、それまでに一度も練習したことない曲も急にプレイしたりしてて、すごいなって思ってた。自分でも落ち着きがなくなるっていうか違和感があるような状況でも、より面白いことになり得るし楽しめるんだってことを学んだね」

音楽以外の分野で、ヒーローやロールモデルはいますか?

「ジェイムズ・ボールドウィンって作家がすごく好きだね。彼の本は全部持ってるよ。小説やエッセイを書きつつ、公民権運動家でもあった人なんだけど…彼はゲイの黒人で、50年代に既にそういった題材について書いてたんだけど、それって当時にしたらかなり物議を醸し出すようなことだよね。誰にでも出来たことじゃないし、そうやって周りを恐れたりしないで自分自身を表現してる人って本当にリスペクトするよ。(本を取り出しながら)他にも、ジャック・ジョンソンっていう、黒人としては初めての世界ヘビー級王者になったボクサーがいたんだけど、彼もジェイムズ・ボールドウィンと共通する部分があって、開拓者のひとりなんだよね」

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大学で音楽ジャーナリズムを学んだと聞きましたが、いま生かされてることはありますか?

「この前もThe TalkhouseってサイトでTV オン・ザ・レディオアルバムレヴューを書いたりもしたよ(笑)。でもそうだなあ、ジャーナリズムを学んだって経験からは、音楽的にというよりは人間として視野や世界観がよりワイドになったのが一番大きいかな。音楽関係だけじゃなくっていろんな人と接しなければいけなかったし、いろんな人と出会って話せて考え方をいろいろ聞けたのはほんと良かったと思うよ」

現在の音楽シーンでシンパシーを感じるアーティストはいますか?

コートニー・バーネットだね。オーストラリアのシンガーでツアーも一緒にまわったりして友達になったんだけど、彼女にはやってること含めて親近感を感じてるよ。あとは…オーストラリアのフェスのバックステージで、そのコートニーや、マック・デマルコエンジェル・オルセンなんかが一緒だったんだけど、みんな同じくらいの年齢のシンガーソングライターで、彼らには仲間意識はあるかな。エレクトロニックなものが流行ってる中で、みんなギター・ミュージックをやってるってところも含めてね」

では最後の質問です。今後いろんなイベントやフェスに出ると思いますが、もし自分が音楽イベントやフェスをキュレートするとしたら、誰をブッキングしたいですか?

「そうだね…まずはTV オン・ザ・レディオ。彼らはソウルとエレクトロニック・ミュージックを結びつけた素晴らしい音楽をやってると思う。『リターン・トゥ・クッキー・マウンテン』は僕のオールタイム・フェイヴァリット・アルバムでもあるしね。それから…(しばらく考えて)…あとは友達ばっかりになりそうだなあ(笑)…さっき挙げたコートニー・バーネットと、パーケイ・コーツ。彼らはパンクバンドとしてもかっこいいんだけど、コートニーと同じで、すごくいい歌詞を書いてる作詞家でもあると思う。フランスで一緒にプレイしたし、レーベルも一緒なんだよね。それから、マック・デマルコ。マックは単純に楽しいヤツだから(笑)。これ見てよ(と言ってふたりで女装してる写真を嬉しそうに見せる)。最後は…自分かな…いや、やっぱりやめて…ディアハンターかな。彼らのギター・サウンドがすごく好きなんだ。実験的な曲でありつつポップであることにいつも成功してるし、『マイクロキャッスル』はすごく好きなアルバムなんだ」

このラインナップってレーベル繋がりでもあったりしますね。

「マック以外はベガーズ・グループのレーベルのアーティストばっかりだね(笑)。僕もそうなんだけど(ラフ・トレード所属)、いかにいいバンドばっか出してるレーベルかっていう証明だよね(笑)」

 インタヴュー後に行われたライヴでは、その言葉を裏付けるかのように、コートニー・バーネットのTシャツを着て登場し、嗄れたブルージーでヴィンテージな声を聴かせつつ、歪んだファズの音や時折カート・コバーンを思い起こさせるようなヴォーカルで、グランジ/オルタナの空虚感や切なさもモダンな形で鳴らしていた。そういった今時のアーティストな一面も見せ、荒削りで生々しい演奏な一方で、ヴァイオリンとマンドリンでカントリー・ブルースを奏でるというしなやかさも見せていて、奥行きの広さとこれからの展開も期待させるようなライヴだった。「近いうちにまた日本に来るよ」とそのとき彼は言っていたが、その言葉通り、フジロックに出演という形で早くも日本に戻ってくる。その音に触れるのは、今からでもまだまだ遅くはないと思う。

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