INTERVIEW
田中「じゃあ、最後に質問を二つ。ひとつめは、このアルバムと、次に作るアルバムに違いがあるとすれば、どういった違いだと思いますか? っていう質問です」
長野「今回のやつは、自分たちはこういうふうなサウンドをやりたいんです、と紹介する意味があって。ここまでのポップさだったら、自分たちがやりたいと思っているスタンスは崩れないだろうっていうところで、自分たちの持っている趣味嗜好の部分をわかりやすくまとめたものにしたいと思っていたし、実際そういうふうに出来たと思ってます。で、次に作るものは、逆にもっとポップなものにしたいと思っていて。三枚目までは、自分たちが何をしたいのかっていうのが具体的にあるんですけど」
田中「ああ、もうあるんだ?」
長野「はい。やっぱり、本当に自分たちの趣味嗜好だけのサウンドでやっていても広がって行かないし、マニアックなことをやって、すごく一部のコアな人に向けたものになる、っていう着地点がうっすら見えるので。でも、そこに着地させないで、もっと大きく広げられるように繋げたい、と思ってるんですね。だから、もっとバンドの世界観を理解してもらう意味でのポップ性みたいなものを打ち出していきたい。今回の1stに関しては、フィフティ・フィフティな部分が結構あって。自分たちが楽曲に求める美学と、それを聴いて理解してほしいっていうのと」
高藤「うん、そうだね」
長野「だから、『こういうものもあるんだ』って投げたボールをキャッチしてほしいんですよ。そこの部分が今回はすごく強かったので。でも、次回は自分たちがバンドのサウンドに求める美学を崩さずに、如何にキャッチーに出来るか、っていうのをもっと打ち出していきたい。そういう意味では、レディオヘッドがやってることは参考にしていて。彼らは二枚目まではすごくキャッチーだし、すごくいいメロディだけど、『OKコンピューター』で少しひねってきて。で、『キッドA』でぶっ飛ばした感じになって、さらにそこからは自分の世界に行った。でも、あれを日本でやったら、『ああ、そういうふうになったんだね』みたいな扱いで、決して大きい会場は埋まらないし、ヘッドライナーは務まらないと思うんですよ。そこをキチンと広げたっていうのが、やっぱりものすごいっていう。で、レディオヘッドは、まず『パブロ・ハニー』と『ザ・ベンズ』があったからこそ、そこまで広げられた、とも思うんで。だから、自分たちもわかり切った着地にならないで、そこに近づけていけるような世界観の打ち出し方をしたくて。やっぱり音楽って、聴いてくれる人と発信する人があってのものなので。一方的に押し付けるだけの音楽って、絶対いいものにはならないし。なので、まずはベースとなる関係性を築く意味でも、次はすごくキャッチーなものにしたいと思っています」
田中「わかりました。じゃあ、最後の質問です。NOWEARMANが、もしくはこの作品がレペゼンしているメンタリティ、ライフ・スタイル、考え方というのが何かしらあるとすれば、それを無理やり言語化してもらえますか?」
長野「それは、特殊なものが普遍になる瞬間っていうか。それを今回の1stでは打ち出したかったっていうのはあります。なので、聴いた時に、ぶっちゃけ理解できない人もたくさんいると思うんですよ。好き嫌いって言うよりは、わからない(笑)。だから、それがいい意味にしろ悪い意味にしろ、『わからない』って言われているものを、今後スタンダードとまでは言わないですけど、普遍的なものにしていきたいっていう。そこを今回のアルバムには自分たちなりに詰めました」
田中「でも、そうか。わからない、っていう反応が多いんだね。僕はすごく目的とか方向性がクリアなレコードだと思いますけど」
長野「ほんとですか。すごく嬉しいんですけど、そんなふうに思ってくれる人は、希少というか珍しくて」
高藤「わからないとか、やっぱり言われるからね」
田中「でも、ほんと、目指したところにキチンと着地した作品だと思います。初めてライヴを観させてもらった時に僕が感じたバンドのアイデンティティが、演奏にもアンサンブルにもソングライティングにもレコーディング・プロダクションにも、明確に落とし込まれているから。"Terrace Light"なんかにしても、レコードの方がそこがよりクリアだと思いました。ライヴの時はア・サーテン・レイシオっていう感想を持ちましたけど、レコードで聴くと、二つ感じたの。ひとつはLCDサウンドシステムからファクトリー・フロアまでの、ここ7、8年の流れにいるバンドが日本にもいるんだ、っていうこと。もうひとつは――〈サインマグ〉に天井(潤之介)くんが書いてくれたTV・オン・ザ・レディオの原稿に、ゼロ年代のニューヨーク・シーンには二つ主流があったと書いていたんです。ひとつはストロークスに代表されるロックンロール・リヴァイヴァル。で、もうひとつはLCDとかヤー・ヤー・ヤーズとか、いわゆるポストパンク・リヴァイヴァル。僕は両方とも大好きだったんですよ。で、このアルバムを聴くと、ストロークスがやろうとしたことと、〈DFA〉とかヤー・ヤー・ヤーズがやろうとしたことが両方ともあるじゃん、って感じさせてくれるっていう」
長野「本当に嬉しいですね。もう、なんて素晴らしいクリスマス・プレゼントなんだか」
全員「ハハハッ!(笑)」
田中「だから、すごいクリアなレコードだと思いますよ」
長野「ありがとうございます。めっちゃ嬉しいです」
田中「なので、そこは声を大にして言っておきました(笑)」
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