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(2015.1.13)

2014年ベストアルバム

2014年、今年リリースされたアルバムを中心にアーティストや音楽関係者にベストアルバムを選んでいただきました。

fyk(ニギリッペちゃん) が選ぶ2014年 ベストアルバム

no1
Radio Rewrite
Radio Rewrite
Steve Reich
no3
LP1
LP1
FKA Twigs
no4
Gist Is
Gist Is
Adult Jazz
no5
Nikki Nack
Nikki Nack
tUnE-yArDs
no6
ホテル・ヴァレンタイン
Hotel Valentine
Cibo Matto
no7
AFTER HOURS
AFTER HOURS
シャムキャッツ
no8
Savage Imagination (ボーナストラック2曲収録 / 本人達による全曲解説、歌詞付き)
Savage Imagination
Takako Minekawa & Dustin Wong
no9
Alas Rattoisaa Virtaa [Analog]
Alas Rattoisaa Virtaa [Analog]
Kemialliset Ystavat
no10
jk_golden_heart
Golden Heart
Heidi Happy

01. 『Radio Rewrite』 Steve Reich
ようやく形になったRadiohead再構盤のフィジカルリリース。アルバムを聴くたび、フレーズの反復が私の中で限りなく膨張し、身体がひたすら研ぎ澄ま されていくような、ふしぎな感覚を味わいます。特に前半、ジョニー・グリーンウッドのギターからビッキー・チョウのピアノへと繋がる流れがすばらしく好 き。あと、2012年にしりあがり寿さんが自身のインスタレーション展でチャレンジされたようなこと―― バラバラだったはずの音の断片がある周期で足並みを揃えて共鳴し、そこに想像を超えた調和が訪れる…という、ある種のケチャのような美しさを湛えた音の群 れにも感服。聴き終えてもなお脳内でその反復は続く。どこまでも鳴り止まない一枚。

02. 『Everything Will Be Alright in the End』 weezer
そもそもギタポ/パワポといった類の音楽は苦手というか、うんと若いころは敬遠していたんですが、Weezerの1st〜2ndは当時ちょっと特別だった。 そんな私が90年代に日本屈指のウィーザー馬鹿たち(ゴッチくん含む)とそこかしこで出会い、繁華街の吹き溜まりのようなバーで鳴き虫ロックに造詣を深め たり、またそこで10数年ほどDJしたりして育んだ「泣き虫ロック愛」というやつがこのアルバムによって完全によみがえり、血がふつふつと滾りました。 ウィーザーよ、もういつ解散してくれても悔いは無い。それくらい最高な泣き虫ロックの本命盤。ギターのロングトーンが唸り、リヴァースの声がむせぶたび熱 いものがこみあげて溢れ出すので、毎回2曲ずつしか聴けないです。リック・オケイセック、あんたやっぱり最高だ。そして今度こそおかえり、ウィーザー!

03. 『LP1』 FKA Twigs
Yeezusの楽曲もかなり好きだったので「もしやARCAが好きなのでは?」と『Xen』も聴いてみたんですが、ARCAソロではイマイチピンとこなかった私。でも こういう、ポップアイコンと彼の音が融合すると鳥肌が立つくらい好きになれる。FKA twigsは『FADER』の表紙で知ったんですが、あのインパクトがまず凄くて。まずルックスで「なんか凄いの出てきたぞ…」というザワザワが止まら ず、そのまま「Papi Pacify」と「Water Me」のMVをチェックして持ってかれてしまったという。とにかく今っぽい質の高い音創りで、しかも全曲良い。いろんな意味で2014年ぽさ全開のアルバ ムだったと思う。プログラミングを流すだけか?と思っていたライブもかなり生っぽく、サンプリングを組み込んだパッド数台&エフェクトを駆使してやったり してて、実物を観るのが愉しみでなりません。2015年は世界のあちこちでライブをやってほしいな、それも大きすぎない会場で。

04. 『Gist Is』 Adult Jazz
アルバムをちゃんと聴く前は“Alt-J meets James Blake”的なことを想像していたのですが、結果的にアルバムを通して繰り返し聴いたのはAlt-JでもJames BlakeでもなくAdult Jazzだった。ここではギターやベースが弦楽器として鳴らされ、ラップトップと協奏することでそれらのストリングスとしての魅力がより引き出されてもい て、個人的に相当いいアルバムだと確信してます。音楽性としてはDirty ProjectorsやJoanna Newsomといった「職人魂を持つ独創的なアーティスト」にグッとくるリスナーの心にも響く、インディーズ音楽界の新星かなと。紛らわしいバンド名のた め、ネットで検索するたびにどこかで見たようなジャズコンピだったり、ヘタしたらspyro gyraのアルバムなんかが出てきたりして困りますけど、2015年の暮れには上位表示される存在になってると思います(笑。

05. 『Nikki Nack』 tUnE-yArDs
おなじく2014年にアルバムを出したKimbraや、映画『her/世界でひとつだけの彼女』のスコアでも脚光を浴びたオーウェン・パレットなど、リアル タイムでサンプルやループを作りながら音のレイヤーを重ね、ひとり多重演奏をすることでライブを成立させ、会場を湧かせてしまう人というのが海外には沢山 いて。しかもみんな超絶に巧いのですが。私の中で、この分野(?)で最もバランス感覚に長けたアーティストのひとりがこのtUnE-yArDsことメリ ル・ガーバスです。今作では彼女の持ち味である太くしなやかな唄声×ポップセンスにJohn Hillの商業音楽的プロデュースが乗り、ギリギリのところで野生、もとい個性を失わず形になっている気がしてて。これ以上やると魅力を失ってしまうん じゃないか、という極地でメリルが本気で変わろうとしているのが、音源、プラスいつになくドレッシーな彼女から伝わった。「tUnE-yArDsって 誰?」という人にはぜひ、KEXPのライブ動画(Full Performanceというやつです)を観ていただきたく、そのうえで、実はこのパフォーマンスをサポート無しでも彼女がやりきれるのだ!という事実を 理解して、ぜひアルバムを買ってもらいたい。

06. 『Hotel Valentine』 Cibo Matto
長すぎるインターバルを経て出現したCibo Mattoの、もう出ないかもと諦めていた3枚目。制作期間2年という時間を費やしてようやっと出た、うえにもう、ほんとうに本当に素晴らしいので、まだ 聴いてない人には今すぐネットでフル試聴せよ!と叫びたい。でもって共にカラダを揺らしつつ語り合いたい。そんな作品。彼女たちのようにラフに結成された ユニットで、音楽的な輝きや面白さを失わず、遊び心を振り回しながら今なおパワフルに、魅力的に活動できる日本人女性を私はほかに知りません。今作ではそ もそもの「食べ物狂い」というコンセプトから視点をずらし、架空のホテルを舞台に、ゴーストと宿泊客のラブストーリーが展開してゆくという趣向。全編聴き 終えるとなにか良い映画を1本観たかのような、心地いい充実感が得られます。ホテルバレンタインにチェックインするとユニークでミステリアスな世界が口を 開く。飛び込んで、覗いて、うろついて、この魅惑の42分を皆さんにも体感していただければ。

07. 『After Hours』 シャムキャッツ
邦楽バンドシーンはここ数年本当に盛り上がっていて、いいバンドもいっぱい居るし、層が厚いうえに広がって今後ますます楽しみなのですが。シャムキャッツは この『After Hours』という作品で、ちょっと特別な輝きを手に入れたような気がしてます。2012年のザゼン(ポテサラ)を抜き、私の中でいま思わず口ずさんでし まう歌詞ナンバーワンでもある。この歌詞については、ボーカル兼ソングライターである夏目くんのセンス&インテリジェンスにとにかく賛辞を送りたいのです が、ボヤボヤしてると聴き洩らすほど絶妙に「タモリがはしゃぎ下らなく午後がはじまる頃」「騒音が重なって寝息みたい」といった詩が、楽曲の上で呟かれて いることに震える。2014年に歌詞でうわ!となったのはSun Kil Moonと夏目くんです。ライブを重ねるごと次なる高みに向け、4人がひと塊となって飛び散っているその眩しさといったらなく。しかも皆に愛される才能も 備えているという。末恐ろしい存在でしかありません。

08. 『Savage Imagination』 Takako Minekawa & Dustin Wong
この作品に関しては語れば語るほど邪推が乗っかってしまう気がするので、気になったらとにかく聴いて、できればライブを観てもらいたいなと思う。ダスティン と嶺川さんってほんとに相性が良くて、最高のカップリングだよな…と聴きながらしみじみ実感します。音と戯れ、愉しむことの素晴らしさ。無邪気に弾むその 宇宙とピュアネスがここに詰まってる。

09. 『Alas Rattoisaa Virtaa』 Kemialliset Ystavat
私がフィンランド語ができないせいで見つけられないのか、ライブ映像もなく、また情報も少なくて詳しいことがよく分からないんですが、謎のヴェールに包まれ たまま何故だかやたらと聴き込んだ。そんな掴みどころのない1枚がこちらです。音楽的にはローファイ寄りのフリーフォーク、サイケ、アヴァンギャルドな電 子音楽。ともすればアンビエントといった括りにもなるかと思いますが、ポップです。敢えて言葉にするならば、極彩色の音のコラージュがこそばゆくってキモ チいい、カオスと浮遊の大団円といったところか。あと、ゲストミュージシャンが結構豪華で、フィンランドのこっち系人脈がごっそり参加しているのも謎。気 軽に人には薦められないが、ボアダムス周辺のノイズや、実験音楽好きな方なら気に入ってくれるかもしれない。彼はいったい何者なのか。誰かにじっくり解説 してほしい、いま気になって仕方ないアーティストです。

10 .『Golden Heart』 Heidi Happy
個人的にギターを弾きながら唄う女性というのが好きなので、毎年こういったシンガーソングライターのアルバムはかなりチェックしてるつもりなのですが、 2014年で1枚選ぶとしたらこれかなと。彼女はヨーロッパをベースに活動しているミュージシャンで、クラシカルな要素に裏打ちされたウォーミーな唄声が 魅力的なアーティストなのですが、スイス生まれということでフランス語、ドイツ語の喋り手でもあり、(音の響きで無意識に選んでいるのだろうけれど)ひと つの言語に縛られず自分らしく唄いこなせるところもいいなと思ってます。曲によってフォーキーだったり、ダンス的だったり、異なるアプローチを見せた今 作。根底に流れるスモーキーな唄と、ヨーロッパ特有のいなたさが愛しい。


【2014年を振り返って】

今回1枚ずつのコメントがボリューミーなのでアレですが、余力があればお付き合いください。

2014年。音としては「ダブステップ以降のベースが流行ったな」という印象で、Lorde、FKA-twigs、Young Fathersが象徴的でした。あと、インダストリアルな要素を取りいれたバンドもちょこちょこ居たんじゃないでしょうか。

ワールドミュージック枠でヒットだったのはTinariwenとTanya Tagaq。とくにタニアは民俗文化としてのスロート・シンギングをポップにまとめあげた立役者のように感じていて、Polaris Music Prizeでのパフォーマンスも圧巻だったので、2015年はフジロックに出たりしないかな…と期待してます。フェスで観てみたい。

また、OOIOO、嶺川さん&ダスティン、レイチェル・ダッドといった個人的にお気に入りなアーティストがトライバルな要素にアプローチしていることも嬉し い。日本のワールド音楽、ということでいま注目しているのは山陰をベースに活動している「ゆにわ」という古代音楽のユニットで、私の住む広島からも近いの で、2015年はどこかで遭遇したいなと思ってます。

邦楽では、SIMI LABや坂本慎太郎さんの新譜に興奮したり、自分的に意外なところでLOSTAGEに感動したりしたのですが、「暗夜の心中立て」を唄った石川さゆりさん のsongs出演がまあ凄かったな、というのと。あと大森靖子ちゃんのメジャーデビューがひとつ、象徴的な出来事としてあって。

後述の移籍に関しては、私が勝手に注目しているダンスユニット2組(ayabambi、東京ゲゲゲイ)や、次世代邦楽シーンの縮図のような存在で、とにかく最高で 最低なパフォーマンスを繰り広げる音楽集団=nature danger gangといったアーティストが頭角を現してきたことにも通じるような気がしていて。ヴォーグ、ゴス、ハードコアといったキーワードを感じさせる彼らの存 在は、日本的な奇妙さとカッコよさを湛えた固有の文化として、「クールジャパン」という次元に合流するんじゃないかとも思ってます。

2015年以降の流れとしては、Kanye WestやBeyonceのように…とは言わないものの、より芸術性を高め、パフォーマンスを追求した「エンターテインメントとしてのライブ」が日本でも 活性化するんじゃないかと。なぜなら「ライブ=演奏する、歌う」という枠組みからハミ出して、その時間・空間をどう演出し発信するか? オーディエンスの心にどこまで踏み込み、感動を与え、オリジナルな付加価値を生み出せるか?といったことが、もっと求められると感じているので。

そういう意味でも今後は、独創性を持ったクリエイターと次世代のテクノロジーが注目され、資本とクリエイションの両方に精通し、自由にディレクションやキュ レーションができるエッジの利いたプロデューサーが必要とされる時代が来るんだろうなと思う。「ライブに来る人、CDを買う人。いわゆるエンドユーザーに 驚きや発見をもたらし、心を揺さぶれないモノ・コトは淘汰される」という流れになるのだと思っています。

音楽でも芝居でも芸術でも、身体性をもって柔軟に活動しているアーティストがもっと発見され、フックアップされるといいな。 媒体もイベントもっとクロスオーバーに融合して混じり合い、東京オリンピックや、その先に訪れるだろう新生邦楽シーンに向けて、新たな変異的才能を生み出す土壌が培われる一年となるよう願っています。

fyk(ニギリッペちゃん)

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WEB
https://twitter.com/fyk_littleme

BIO
不景気で独立を余儀なくされた可哀想なフリーランス。好物は、心奮わせてくれるものと生肉。「ねこよ、1年365日いつでも私の胸に飛び込んでこい!」という、熱いハートの持ち主でもあります。広島在住。

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