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(2011.01.31)
関和亮 ×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

――そういう中で、自分の流儀としてこれだけは譲れない部分って何かありますか?

「自分がその曲を聴いた時に、この音が鳴っているからこういう絵を入れたいっていうのは、すごくあるんですよ、音楽ビデオだし。それが、そうじゃないんじゃない?って言われると、いやいやいやいやっていうのはりますね。そこは、譲れないので説き伏せるというか、話し合いますね」

――関さんは、現在の会社に'98年に入社されて、この世界に入って12年以上とのことですが、映像の世界に入ろうと思ったきっかけは何だったんですか?

「きっかけは、中高生と単純に音楽が好きだったってことですね。田舎は長野県で、すごくローカルな所なんで、CDを買いに行くのに時間がかかる場所だったんです。だから、音楽に触れるには自分から積極的に求めないと入ってこなくて。で、いろいろCDを聴いたり、ミュージック・ビデオもどんどん見るようになって。後藤さんは同世代だからわかると思うんですけど、テレビでやっていた『BEAT UK』をずっと観てました。それを観て、音楽って音だけではなくて映像で伝えるっていう世界があるんだと刺激を受けて、こういう仕事をやりたいと思ったんです」

――結構、早い段階で将来の夢が固まっていたんですね。

「そうですね。高校生のときには映像の世界に入ることを決めていました」

後藤「高校卒業後は、どちらに進学されたんですか?」

「僕、東京の大学に一瞬入学したんですけど3ヵ月くらいで辞めてしまって、その後はバイトをしていて。たまたまそのバイト先の店長と映画監督の方が知り合いで、それがきっかけで映像の現場、Vシネマとかドラマとかを紹介してもらって、バタバタと下積みを重ねてました。19歳とか20歳くらいのときですね」

後藤「現場に飛び込んでいったんですね。叩き上げですね」

「そうです。完全に叩き上げです。映像の学校にも行きましたけど、そこで覚えたことっていうよりは、現場で覚えていったことの方が大きいです」

後藤「そういうのって、この対談を若い子が読んだとして、意外と現場でやったことの方が大きいんだなって参考になりますね。現場の経験の方が役立っているって、実感されているってことですもんね?」

「僕は、学校で習ったこととかって、そんなに役に立たなかったから。現場に3ヵ月とか半年とか入れば、言葉で覚えることができますしね」

後藤「僕は静岡県出身ですけど、昔って田舎には、いろんな孤島みたいなのがたくさんあって、情報鎖国みたいなね(笑)。でも今は、インターネットがあるっていうのはものすごく大きくて、能動的に動けば何でも知ることができるから、今の時代を生きている若い子をうらやましく思うけど。まぁ、その情報が本当か嘘かは、いよいよ分からなくなってきた部分もあるけどね。かといって能動的に何かをやっているかっていったら、そうでもないと思うし。例えば、私も映像作品を作ってみたい、PVを撮ってみたいって思ったら、型を押したようにそういう学校に通ってしまうと思うんですよね。その型への押されかたって、僕らが学生の頃から窮屈だなって感じていたけど、それにしてもなって思うところはありますよ。何にも変わらない」

「映像系とか美術系の学校に、PV学科っていうのがあるんですよ! それを聞いたとき本当にビックリして! "バカヤロウ! PV学科って何だそれは!?"って(笑)」

後藤「いいですね(笑)。そういう話が聞きたいです」

「(笑)。PV学科は本当にビックリして、"PVとはこう作るんです"って、多分やってるわけですよね。嘘~!?って思いましたよ」

後藤「最初に囲ってしまうとね」

「そうなんですよ。今、後藤さんの話を聞いて本当にそうだなって思って。僕、面白くないなって思うのは、PVってPVっぽいのがいいとされる風習があって。さっき、後藤さんがクライアント仕事がっておっしゃっていたのは、PV然としているってことなんだろうなって思ったんですけど」

後藤「そうそう。 アーティストが出てきて、演奏をよく撮って顔をフォーカスしたりしてね。サカナクションの『アルクアラウンド』が面白いのは、一郎君とか全然ピンボケで、分かってんだか分かってないんだかのところを歩いていたりとか。他のメンバーもチラッと出てくるだけだし。そういう、カメラワークの面白さがあるんですよね。でも作品全体で通すと心に入ってくるものがあるっていうか。ハッとするところもたくさんあるし。でも、他の人のことは言えないけど、メンバーの顔ばかりが映っているPVもあって。果たして、そういうPVは、曲の宣伝になっているかはわからないなと思うこともあって。その人たちの顔を覚えてもらうにはいいかもしれないけど。それって、音楽をメインとしているっていうよりは偶像を売ってる気がするんですよね。だから、そういうのは観て歴然としてるなって。でもそれが、Perfumeだったら彼女たちそのものをアイドルとして面白く撮るってことだと思うから、マッチしていると思うし。でも、この人たちをよく撮ったところでなっていうのもあると思って、自分たちのPVにも言えることかもしれないけど。僕たちをよく撮ったところで何が広がるんだろうって思うこともあります。自分が好きな海外のバンドの人たちのミュージック・ビデオとか見てても、そこにはフォーカスされてないものが多いんですよね。個人的には、本人たちが出てこないものが好きではあるんです。ただ、さっきも言ったOK GOのミュージック・ビデオとか、これ何回やったんだろうなっていう。その手間とか面白いなって思うんですよね。日本のPVって、必要以上に広告化し過ぎているっていうか」

「本当に、PVですよね。『BEAT UK』とか見ていて、これはアーティストの作品なんだ、だから音楽を作るように作っているんだって思ってたんですけど、業界に入ったときにそういう要素が少なくってビックリしたんです。どうしても宣伝的な意味合いがすごく強くて、PVの制作費は宣伝費から出るっていうのを、若いときは知らなくて」

後藤「くくりは一緒ですけどね。制作費の中から宣伝費は出てるから。でも、なんだかなぁとか思いますよね。本当は、アジカンのPVとかTシャツとかアートワークとか、全部自分でコントロールしたかったんです。でも、プロジェクトが巨大過ぎて、スタッフにそれぞれ担当の人がいるから、どこまでそれを明け渡していくかっていうのが毎回戦いっていうか。例えば、タイアップが付きますって話があって、イントロをカットとか自分が作った曲をチョキチョキ切られたりすることに、"えっ!?信じられない"とか思って。最初のころは、スタッフが青ざめるくらいに大喧嘩してましたから(笑)。そういうのも、良いのか悪いのかだんだん大人になって受け入れたりしてきているけど。でもなんかなっていうのはありますよ。やっていることは、ポップス、ポピュラーミュージックだから、一方では何の興味もない人を引き込みたいって野心もある。本当は、そういうのが一致したPVっていうか、ミュージック・ビデオが作れたらいいなって。OK GOとかのミュージック・ビデオって、ルームランナーで走ってたり犬が出てきたり、音楽好きじゃない人が観ても楽しめるし。それで、この人たちのCDを聴いてみようかなって思う人もいると思うし。本当は、そういう在り方が正しい回転だと思うんですよね。テレビやweb上で流す意味とかも。今は、そこが分離しちゃっている気がしますよね」

「今、テレビ以外で観ることができるタイミングって増えていると思うし、音楽と映像が近寄っていて。以前海外のアーティストが言っていて名言だなと思ったんですけど"これからは音楽は観る時代だ"って。そういう風になっていくかはわからないけど、より密接になっていくのかなって感じますね」

後藤「僕らも大分前から、CDシングルってなくなるなって話をしていて。CDシングルは映像付きになるって、コピーコントロールが付くとか付かない以前に、そんな話をしていて。今、アルバムですら、そういう時代になってきてますよね。だって、パソコンで音楽を聴く人がたくさんいるし。僕だって、少女時代とか音源だけで聴くより映像付きで聴いちゃうしね(笑)」

――今、後藤さんがおっしゃったようなミュージシャンからのミュージック・ビデオの在り方を聞いてどう思われました?

「嬉しいですね。意外と考えていない方も多いんですよ」

――ミュージック・ビデオを制作する上で、ミュージシャンの方々と直でお話をされるんですか?

「基本は、毎回お話しますね。こうしたいっていう意見は伺います。超具体的な話っていうのは、あまりないです。キーワードだったりを聞いて、お任せしてもらう感じです」

後藤「ミュージシャンは、スケジュール的にそこまで回らないっていうのはありますね。できたらやりたいっていう思いはあるんだけど」

「音楽を作ったら、プロモーションやら他の仕事もありますもんね」

後藤「映像には映像のプロがいますしね。僕も1回やってみたくて、『ループ&ループ』っていう曲で絵コンテ書いたりしてやってみたんだけど、思うようにできなかった」

「そういう意味でも、ミュージック・ビデオの監督って職人的な感じなのかなって思います。こういう家を作る人なんだってことで、選んでもらってるのかなと思ってるんですけどね」

――ミュージック・ビデオが1本できるまでの工程を簡単に教えていただけますか?

「まず、音源と一緒にオファーがきます。それを聴いた上で、スタッフとミュージシャンと打ち合せをします。その打ち合せをもとに、企画書を作ります。3パターンくらいの企画を考えますね。お互いのイメージが合致することってそうないとは思うので。そのパターンの中から選んでいただいて、絵コンテを進めていきます。そこからまた細かいディテールの話などをしていきますね。もっと細かい工程を挙げたら、衣装合わせから撮影場所のプレゼンまでたくさんあります」

――オファーが来てから完成まではどの位かかるのですか?

「多いパターンは、1ヵ月くらいですよ。準備に2週間、仕上げに2週間くらいですね」

――結構、タイトなスケジュールですね。

「そうですね。最近は、曲がリリースされるタイミングから曲が完成するまでの期間が短くなっているんで、よりタイトです。プロモーション・ビデオっていうくらいなので、曲がリリースされる1ヵ月くらい前には完成しないといけないですし。場合によっては、ラフ音源やデモ段階で渡されるときもありますよ(笑)。だから、音が完成音源で変わっていることもあるんです。でも、そういうときにはコマーシャルと違って、ライブ感、ノリで作れる部分もある。そこが、ミュージック・ビデオも面白さだと思うんです」

関和亮(セキカズアキ)-PROFILE-

Director/Photographer/Art Director

1976年長野県小布施町生まれ。
1998年株式会社トリプル・オー参加。
2000年より映像ディレクターとして活動。
2004年頃より、Art Direction、Photographerとしても活動。
PerfumeのCD jaket Art Direction及びMusic Video Direction
サカナクション『アルクアラウンド』のMusic Video Directionをはじめ
数多くのミュージシャンのアートワークを担当。
第14回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門にてディレクションした
サカナクション『アルクアラウンド』が優秀賞を獲得。

写真集
Perfume「Portfolio」ワニブックス
Perfume「Livefolio」光文社

文化庁メディア芸術祭
受賞作品展 2011.2.2→2.13 国立新美術展にて開催
第14回 文化庁メディア芸術祭では、関和亮さんが手がけたサカナクション『アルクアラウンド』の受賞のほか、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『迷子犬と雨のビート』がオープニングテーマ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのジャケットを手がける中村佑介さんがキャラクター原案を手がけた『四畳半神話大系』が、アニメーション部門で大賞を受賞。また、後藤正文が雑誌『ぴあ』にて連載している『ゴッチ語録』のイラストを手がける漫画家の山本直樹さんが、漫画部門にて『レッド』で優秀賞を受賞している。
文化庁メディア芸術祭