INTERVIEW
――先程、2006年くらいにアジカンを聴いていたとおっしゃっていましたけど、そのころは他に何を聴かれていたんですか?
環 「友達に薦められて、フィッシュマンズを聴いてました。狂ったように聴いてましたね。2007年は、フィッシュマンズを聴いて終わりました。その辺の想いは最近発売されたフィッシュマンズの公式本にちょろっとコメントしてます」
――当時、並行してヒップホップも聴かれていたんですか?
環 「あんまり聴かないようにしてみました。見聞が広いほうがいいかなと思ったし。ジャンル・オリエンテッド過ぎると、生き残っていけないんじゃないか説が、自分の中であって」
後藤 「なるほど。よくわかる。血がどんどん濃くなって、自家中毒みたいになってくるんだよね」
――後藤さんは、2007年以降くらいからヒッポホップをかなり聴くようになったと以前インタビューでおっしゃっていましたよね?
後藤 「『ファンクラブ』って、アルバムを作り終わった後に、もっと勉強しなきゃダメだなと思ったんだよね」
環 「何枚目のアルバムですか?」
後藤 「3枚目だね。ヒップホップは、単純に譜割りとか言葉数とかね、ボーカリゼーションの面でも見ても、とてつもないっていうかね。とにかく自由っていうか。だから、ちゃんと聴かなきゃいけないと思ってね。カニエ・ウェストとかはいいなと思って聴いてたんだけど。"何この人とか、すごい!"と思ってね」
環 「ずっといいですよね、カニエ・ウエストは。本当にすごいです」
後藤 「毎回トラックも変わるから、すごい楽しいし。バックトラックとかを聴いていても、音もいいし、ロックよりも面白いって思ったんだよね。この感じについていかないとダメだなって直感的に思ったんだよな。だけど詳しくないから、とりあえずヒップホップに関する本を読んだんだよね」
環 「俺もめちゃくちゃ読みましたね」
後藤 「ヒップホップは、エネルギーがとにかくすごいよね。ミュージシャンとしては、ちょっと嫉妬する部分はあるかもね。ギター、ベース、ドラムでやっちゃうと縛りがあるっていうか、自由じゃないところはあるかな」
環 「へー、そんな風に全然思ったことないですけどね」
後藤 「サンプリングっていうのは、ものすごい手法なんだと思うよ。詞とかも、韻を踏むっていうことが文学的な行為だから」
環 「そうなんですかね。 全然思ったことないですね。むしろ、韻を踏まなくても成立するようにしようって感じですけど。アルバム『マジックディスク』の詞とか、すごいと思いましたけどね。前半とか特に好きでしたけど」
後藤 「ありがとうございます。ヒップホップは、韻を踏んで競っている部分もあるでしょ? そのスキルを見せていくっていうか? そんな意識はない?」
環 「僕は、そういうのが薄くなってきている感じがありますね。熟語でカチカチとケツで韻を踏んでいくと、日本語だとどうしても野暮ったくなっちゃうんですよね。だから、一音の母音だけでできるならそれでもいいし。音節の数を増やしたり、あとは1小節目と2小節目のメロディを揃えたりすると、韻を踏まなくても結構綺麗にグルーヴしていくっていうか。そのほうが、よりソフィスティケイトされていく感じがして」
――環さんは、以前インタビューで「作詞家として、高度になっていなかくてはいけない」とおっしゃっていましたけど、後藤さんも、近年は詞への向かい方が以前と変わってきているとおっしゃっていましたよね?
環 「アルバム『マジックディスク』も変わってきてるんですか? 聴かせてもらって、すごくそう思ったんですけど」
後藤 「詞はね、徹底的にやろうと思って。今回はいっぱい書いた、歌にしてないものも含めて。どういうのがいいのかなって、いろいろ考えたね」
環 「すごい、時間を意識した詞でしたね。すごかったです。ここに来る前に、ずっと聴いてて、それでここに来るの緊張したんですけど。スケールでけぇなと思って」
後藤 「ありがとうございます(照笑)。歌詞は大事だと思って。まだ、言葉ってやりようがあるような気がして」
環 「ヒップホップは、これからもっと歌詞に踏み込んでいくっぽいんですよね。2010年以降から」
――今まではそうではなかったですか?
環 「今までで、韻を踏んで鳴っている音をよりヒップホップらしく近づけていくっていう行為はやりつくされてて。みんな、それはできるようになったから。10代の子とかもみんなラップが上手いんですよ。だから00年代後半からは、詞をよくしていこうってところに向かっていっていると思うんですよね。10年代以降はもっと加速すると思います」
後藤 「何を書くかってことかな」
環 「そうですね。何を書くかってことだったり、違和感のない文法で。海外のラップって、しゃべってるような語りかけるような感じで作られてるんですよね。熟語で終わっていくっていうよりは、よりしゃべり言葉で文法も整理されていて自然な表現で。かつ韻的なブラックミュージック特有なグルーヴを作っていくっていうスタイルになっていくと思うんです」
後藤 「さっき言ってたように、一文字でも韻が踏めるんだよね。母音だけでも、全部"う"で揃えれば綺麗になるから。あとは、わかりやすさっていうのは大事だよね。中学生でもわかる言葉で核心を書けたらかっこいいよね。でも、ヒップホップがその韻を踏まない方向へ向かっていくっていう話は、面白い話だね」
環 「韻を踏まなくてもグルーヴを成立させるっていうスキルを研究してるんです。でもそれができたら、また韻を踏むんですよ、きっと。ヒップホップって"俺が新しい!"競争みたいなもんなんで。だから、どんどん淘汰されていくんですよね。だから、ずっと新しいことを更新し続けていかなきゃならないんで、体力がいるんですよ」
後藤 「そっかそっか、なるほどね」
――今度の「NANO-MUGEN」では、大勢のお客さんが待ってますね。
環 「楽器は一個もないし、ひとりで出て行くのですみませんって感じですけど(笑)」
後藤 「『NANO-MUGEN』にヒップホップのアーティストを呼びたいっていうのは、ずっと前からリクエストしてたんだけど、いずれはそうなりたいなっていうのがあって、今回はその第一歩っていうかね」
――「NANO-MUGEN CIRCUIT 2010」に集まる方々にメッセージがあればお願いします。
環 「ラップはリズムに合わせて、しゃべってるだけです(笑)」
後藤 「音楽なんだから、身体を動かしたいなって思えば、ユラユラと踊るのもよし」
環 「ですかね」
後藤 「ライブの当日もそうだけど、今後ROY君と何かやってみたいな。俺は、さっき言ったティーンエイジ・ファンクラブとデ・ラ・ソウルの『フォーリン』の日本語カバーがやりたいな。歌詞を変えてね」
環 「俺、その曲知らないから、聴いてみますね。俺は、後藤さんに歌詞を書いてほしいですね。それを俺がラップ化していくっていう(笑)」
後藤 「ぜひ、何か一緒にやりたいね!」
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