INTERVIEW
初のカヴァー・アルバム『if I had a hi-fi』のプロモーションで来日したナダ・サーフ。タワーレコード渋谷店のインストア・イベントではASIAN KUNG-FU GENERATIONのメンバーも応援にかけつけ、ちょっとしたセッションも実現したのはファンには嬉しいサプライズだったはず。そんなナダ・サーフのメンバーと、こちらもニュー・アルバム『マジックディスク』が絶好調のASIAN KUNG-FU GENERATIONの対談、その後編をお届けです。今回は、アナログ・レコード盤にこだわる思いや本音、音楽ファンに対する愛情などを、マシュー・カーズ、アイラ・エリオット、そして後藤正文にたっぷりを語ってもらいました。今年は〈NANO-MUGEN〉でちょっとしたツアーも行う後藤は意気盛ん。ナダ・サーフも8月には〈サマーソニック〉で再来日が決定! 両者の活動から目が離せなさそうです。
(司会・文・構成/岡村詩野 協力/小木曽涼子)
――ところで、ナダ・サーフもASIAN KUNG-FU GENERATIONもCDとは別にヴァイナル(アナログ盤)を出していますよね。これにはどういうこだわりがあるのですか?
マシュー・カーズ「理由はいっぱいあるよ。音がまず素晴らしい。CDももちろん音はいいよね。MP3もこれからは分からないけれど、今はまだそんなに良くないからね。それから、適度に不便なのもいいな。早送りができないっていうのは結構僕にはいいことなんだ。PCの前に座って音楽を聴いていると、e-mailをしたり、インターネットをしながら、次に進めたくなって、ずっと早送りばかりを続けるんだ。はい、次、はい、次って。でも、レコードだと、早送りができなくて、最後まで聴かなきゃって思うんだ。座らないといけないし、気持ちを落ち着かせて、体験しようと思える。子供のころは、最初から最後までずっと本気で聴いていたんだよね。あれは素晴らしい体験だった。もちろん、アートもずっと良く見えるし。素敵なんだよ。それに、ニューヨークではヴァイナルのセールスは上がってきてるんだ。僕の好きなレコード・ストアーには、ヴァイナルがいっぱい置いてあって、上手に展示されてるよ。店頭での展示(キュレート)も重要。興味を持ってる、探している人がヴァイナルに出会える機会を作る。それに、今は、ヴァイナルを出してこそ、本当のリリースだよ」
後藤正文「僕たちの世代はたぶん、10歳くらいの頃に、プレイヤーが全部CDにぱって変わって...っていう世代なんで、だからどっちかっていうと、ほとんど音源はCDの方だったんだ。でも、じゃあ、なんでレコードが生き延びたかっていうと、それまでのレコード・コレクター達がいなくならなかったのと、僕らの世代は、こういうでかいジャケットで持ってるのが、ちょっとお洒落なんじゃないかっていう感じで、ファッションと結びついているところもちょっとあって」
マシュー「アートワーク、大きく見られるのっていいよね」
後藤「そうそう。でも、一方で音のこともちゃんと見直されている。今は、どのツールが音がいいのか?みたいな話になっていて、でも、明確に何がいいかっていうのをビシッと決めることは難しくて。音に関していうと、ダウンロードでも、今、ビット数が上がったやつ、24ビットの48ヘルツっていうのがあって、それなんかは音がいいから。まあ、でも、やっぱりね、アートワークが大きいっていうのがいいし、そういう意味でやっぱり愛着が全然違うと思うんだよね。だいたいどこで買ったか覚えてるし(笑)。自分の音楽への想いと結びつく。それは、まあ、CDも一緒だと思うんだけど、でもレコードはやっぱり面倒くさいのがいい。針を落として、裏返して、そういうので、音楽を聴いてるときも、レコードのほうが、集中して聴いちゃう。だってほっとけないから。針が落ちちゃうから。そういうところが僕はすごい気に入ってて」
マシュー「音楽を気にかけているっていうのを見せなきゃね」
アイラ・エリオット「僕は曲が飛ぶまで、よくレコード針をずっと押したりしていたな。親指を押して、グルーが壊れたり」
マシュー「マスタリング時のプレスで回転数が早くなってるレコードがあって、それをちゃんとするためには、針の上にニッケルとか二枚落として、回転数を遅くさせて聴くのがコツだとかっていう話もあったよね」
アイラ「ロバート・ジョンソンの全てのレコードは実際のレコーディングよりも20%も速めてマスターしたらしいよ。実際の演奏に近づけるために計算したんだって。本当にびっくりする話だよね」
マシュー「そういう操作ができるのもヴァイナルの面白さだね」
後藤「レコード・プレーヤーも今はすごく安くなって、iPodとほとんど同じくらいの値段になっているんで、僕らよりも若い子たちにも、こういう音楽の聴き方楽しいよっていうことを知って欲しいし、何か共有できたらいいなあと思って。これがきっかけにレコード・プレーヤーを買う僕たちのファンがいてくれたら嬉しいな」
マシュー「これって結構あちこちで言い続けていることなんだけど、まだ何もロックとかを聴いたことがない17歳の子供が、彼の叔父さんの家で、ビートルズかレッド・ツェッペリンのヴァイナルを座って聴いて、素晴らしくてびっくりしたっていう話があるんだ。胸に迫ってくるように感じる感覚があるんだよね。僕も長い間その感覚を忘れていたけど、ヴァイナルには深さがある。ドラムを聴くと深さが聞こえてくる。でも、CDではその深さはないんだ。とても意義深いよ。だから、僕はツアー中に、移動の車の中で音楽を聴かないようにしてる。個人で静かに聴くのがいいからね」
――後藤くんはヴァイナルのプレス工場へ見学に行ったんだよね。
後藤「そう。本当に盤に音を掘っていくんですよ。針を落としてね。それを見たのも面白かったな。余った分をまた再利用したりして」
マシュー「それ、温かいうちに持ってみた?」
後藤「え? どういうこと?」
マシュー「ブルックリンに、クレイジーなエンジニアがいるんだ。これは冷たいからこういう音、これは温かいからこういう音って聴き分けるというね。まるでドーナッツみたいにね。レコードおたくの中でもトップ・リストに入ってるヤツなんだけど、温かい盤はいい音なんだって」
後藤「へえ~!」
アイラ「針や、テーブルや、ケーブルや、すべて音に影響するよ。スピーカーが素晴らしくても、ひどい質の針だったらどうしようもないしね。スティーヴ・マーティンのおもしろいジョークがあるんだ。音質の悪いスピーカーばかりを集めてしまったのに、一向に音が良くないのは針だけが原因だと思っているっていう(笑)」
――今、後藤くんは、買うときは、CDがまだ多い? アナログがあったら、アナログ優先的に買う?
後藤「僕は今、アナログを買いますね。あったらアナログを買います。ただ、今、U.K.のメジャー版がくそ高くて、LCDサウンドシステムの新作、5千円ですよ」
マシュー「なんだって! 犯罪だね。残酷だ。僕も今は、ヴァイナルだけを買っているよ。これからどうなるか予測できるからCDはもう買っていないんだ。買っても、コンピューターにダウンロードした後は聴かないから」
アイラ「うん。僕もヴァイナルを買うよ。でもそういうのは、古いレコードで、もう素晴らしいって分かっているものなんだよね」
マシュー「うん、分かる。好きなレコードをつい買っちゃうっていうね。昔、A面ばかりひたすら聴いてたことがあるなあ。あまりにも好き過ぎて。ダウンロード・カードのシステムは面白いし可能性があるとは思うけどね」
後藤「ダウンロード・カードってすごいいいアイディアだよね。iPodでも聴けるしコンピューターでも聴けるし」
マシュー「CDの時代が終わるのも続くのも決めるのはリスナー次第だとは思っているけれど、でも、これまでちゃんとCDを売ってくれてた人達が急に仕事をなくしちゃうのは公平だとは思えないよ。だから、全てのリスナーの需要を満たすのは重要だよね。どういうツールで聴いてもいいようにしておいてほしいな。世の中には色んな音楽があるのと同様にね」
―― ナダ・サーフも今回のカヴァー・アルバムで一般的には知られていないアーティストや曲を多くとりあげています。これは、まだまだ知られていない素晴らしいアーティストがいるということを伝えたい気持ちがあるからなのでしょうか? ロックやポップ・ミュージックのガイド・ブックには載っている作品だけが名盤じゃないよということを主張したかったというか。
マシュー「そうだね。それに、その多くが僕たちにとっても新しいんだよね。だから、それが僕たちも探し求めている音であったらいいなと思うんだ。少なくとも僕たちは、もうすでに知っているような物には興味がない。例えば、僕が雑誌の『MOJO』を好きなのは、新しい音楽も、昔の音楽も、凄い名盤も、全然知られていない音楽も全て同じに取り扱っていること。完全に平等なんだ。それは、レコード屋でもそういうふうだけど、他にも雑誌の『Super Pop』や、『Super Pop Radio Station』は分け隔てがない。本当に簡単な料理が、人生で一番美味しい料理かもしれないし、とても凝った料理が、人生で一番美味しい料理かもしれないってことさ。例えば、アーサー・ラッセルの曲は、曲を決定するたった一ヶ月前に思いついたんだよ。ずっと自分の好きなアーティストの1人としてカヴァーするつもりだったんだけど。でも、その新しさに改めて僕らはワクワクしたんだ」
――アーサー・ラッセルはもう既に故人ですし、ジャンルも前衛と言われている人ですけどね。
アイラ「この仕事をしていて思うのは、音楽ファンって本当に少ない、小さなグループだってことなんだ。殆どの人達にとっては、音楽はそれほど大切なものではないんだよ、残念なことにね」
マシュー「そうかな~? まあ、多くはないけどね」
アイラ「僕たちは25年間も音楽制作に関わってきたけど、それでもいつも何か全く聴いたことのないものがあるんだよ。いつも、今まで聴いたことのない素晴らしい音楽というのは存在してるんだ。それはいつだってそうなんだ。ずっと続いていくんだ。もっと深く続いてくものなんだよ。それを僕らは見つけ続けているだ。驚くほどに、いくらでも聴いたことのない音楽が存在してるんだよ」
マシュー「今回のカヴァー集で、知られていない曲を集めたのには二つ理由があって。一つは、ただ僕たちがそれらに興味があったこと。つまり、敬意を示した選曲だったんだ。もう一つは、曲のリストを見て、カヴァーしているバンドも知ってて、曲も聴いたことがあって、どんな音楽かが想像できてしまうようなアルバムは作りたくなかったってことなんだ。それがどんな曲か、想像で終わらせないようなことをしたかったんだ。」
後藤「日本はロック・バンドとかには厳しい状況だったりもするんだよね。だから余計に自分がいいなと思うものは、もっと聴かれるようになったら嬉しいと思うし、また共有したいとも思うし、もっと音楽ファンが増えてほしいっていう気持ちもある。そういうところに響けばいいなと思って〈NANO-MUGEN〉をやっているんだ。基本的には"あのバンドいいよね"って一緒に語り合える人たちが増えたら楽しいっていうね」
――マイ・セレクションっていう自主制作のカセット・テープを友達とかに配っていた、あの昔のような感覚ですね。
後藤「そうそう。ミックスド・テープ配ってるような感じ。あと、日本のバンドに関しては、なるべく若い人たちとやる、っていうのもって。やっぱり、若い人たちの方が音楽をとりまく状況は厳しい。日本でもやっぱり僕たち上の世代とかは、わりと状況が良いときにCD出して、経済的にも潤うチャンスがあったとは思うんだけど、今の若い日本のインディー・ロックのバンドたちは、やっぱり状況はとても厳しいので。なにかこう、もう少し、いい状況になるようにサポートしたいっていうのはあるかな。今、本当にいいバンドが多いからね。そういうバンドが活躍することで、またいい循環が生まれてほしいっていう気持ちもあるんだけど」
マシュー「素晴らしい! じゃあ、〈NANO-MUGEN〉はステージ照明付きのミックスド・テープだね(笑)。君たちがそれをキュレートしているのは、良いことだと思う。凄いと思うよ。多くのバンドがいて。クールだし、とても素敵だよね。またぜひ呼んでほしいな。今年、僕たちは7月中はずっとツアーで、ヨーロッパのフェスやライヴに出るんだけど、8月にはサマーソニックに出演するためにまた日本に来る予定。そして残りの8月は、家族と過ごしたりする予定だよ。けれど、9月が始まれば、"ロックの学校"に戻る時期。仕事に戻る時期だ。次のアルバムの曲を終わらせないとね! スタジオにこもって、冬には完成しているといいな。とても楽しみだよ」
後藤「ところでマシュー、実は、ナダ・サーフのことを知って好きになった若いファンから、"是非僕らの町にもツアーで来て下さい!"っていう、呼んで下さいみたいなメールをよくもらうんだ。そういう人達にも、ぜひぜひメッセージを貰える?」
マシュー「嬉しいな。僕たちは小さい町にも行きたくてたまらないよ!」
アイラ「寝て待っててね!(笑)」
マシュー「できるだけ近い日に行くよ!」
後藤「ナダ・サーフの次のアルバムの時にでも一緒にツアーとかやれたらいいな」
マシュー「いいね! 実現できたら素敵だな」
後藤「僕ら、マシューたちの楽器運びもやりますよ(笑)」
INFORMATION
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